『テイルズオブファンタジア〜萌黄色の時・浅葱色の空〜ACT.2』


 「まっほう♪まっほう♪魔法魔法魔法〜〜〜〜〜♪♪」
・・・・・・・・。
 「凍れ!斬り裂け!受けなさい!」
・・・・・・・・。
 「あのさ、リック・・・。少し静かにしてくんねえかな?」 
午後。俺は魔法の練習をしていた。家の前の河の脇が俺の練習場だった。この辺は街の大通りとは離れているので少々大きなことをしても大丈夫だろう。なんのことはない。練習と言っても既に覚えてる術のコントロールの確認をするだけだ。毎日練習をしているわけではないが、なんとなくやっておきたくなる日があるのだ。そんな時、大抵新しい魔法を使えるようになったり、新魔法開発のヒントを得たりすることがあるので嬉しい。
で、是非一回見てみたいと言うのでリックをつき合わせたのだが・・・。何が楽しいのか知らないがさっきからはしゃぎっぱなしなのである。玄関の前の階段に腰掛けて歌まで歌っている。 
 「OK!」
右手をしたっ!と挙げてやたら元気に素直に答える。
・・・・・・。まあいいか・・・・・。
意識を集中させて呪文を唱える。
 「アイスニードル!!」
虚空に氷の刃が現れ、何もない空間を切り裂きつつ地面に刺さった。よし、調子がいい。
 「おお〜〜!!」パチパチパチ・・・
何故か歓声とともに拍手が起こる。いつも見てるじゃねえかこれくらい・・・。
 「続けてライトニング!!」
バチバチィィッ!!一条の稲妻が地面を焼く。そうして次々と初級呪文を試していく。
その度にいちいち歓声をいれてくれるリック。多少のうっとおしさはあるものの、なんだかちょっぴり嬉しかったりする俺・・・。はあ・・・、最近感化されとる・・・。
 「なんだか今日はストームの調子がよかったんじゃないか?」
いつの間にやらお菓子までぱくついてる。
 「・・・お前、ほんと食ってる時って幸せそうだよな・・・。」
 「んあ?」
 「なんでもねえよ・・・。」
確かにちょっとストームを放った時、手応えを感じた。リックの隣に腰をおろし、ママの部屋から持ち出してきた呪文書を開く。グレイブ、アイストーネード、サイクロン・・・。ひとつひとつ手にとってめくってみる。その脇で、俺が見終わり置いていった呪文書を、不思議そうな顔でめくっては線目で戻していくリック。ちらりと目をやると後頭部に汗を浮かべて頭を抱えてる姿が見えた。
 「・・・エルフの血が入ってないんだから、読めないのはしょうがないぞ。」
 「う、うん・・・。ぶらいだる・えるぶん・ろあーだっけ・・・?」
 「プライマル・エルヴン・ロアー。古代エルフ文字だよ。まあ、呪文書の中にはいくつかはいってるからな・・・。」
 「ふ〜ん・・・。」
さっさと飽きて剣の手入れを始めた親友をよそに、もう一度呪文書に触ってみる。ぶつぶつとつぶやきながらめくっていく。この3つの呪文はだいたい頭に入った。俺たちエルフは呪文書さえあればその瞬間に術の式を頭に入れることが出来る。しかし、実際発動してみて尚且つそれを制御できなければ習得したとは言えない。覚えていても扱えるかどうかは術者の力量にかかってくるのだ。
とにかく術を使ってみたい・・・!俺は新たに手に入れた呪文を実際発動してみたくてうずうずしていた。
 「お?やるのかい??」
そんな俺の表情を見てリックが目を輝かせる。呪文は・・・さっき調子の良かった風属性でいこう。
 「ああ!」
答えて俺は脳裏に浮かびあがる言葉を呪にかえて唇にのせていく。
 「天光満つるところに我は在り 黄泉の門開くところに汝在り・・・」
マナが俺の周りに集まり始める。
 「空を駆け抜けし存在 螺旋を描きし碧き存在・・・」
力が湧きあがってくる。・・・これならいける!
 「天光満つるところより 黄泉の門開くところへ 生じて滅ぼさん・・・」
確かな自信とともに詠唱を終えた。
 「出でよ、大気の渦!サイクロン!!!」
風が渦巻く。局地的な竜巻が発生し空間を斬り裂いていく。一時的に刃と化していた風はほどなくして穏やかな流れにかわった。家、その他に被害無し。空間設定と目標設定が成功した証拠である。
 「や・・・!やった〜〜〜〜〜!!!」
 「やったなファルケン!!」
リックが立ち上がり笑顔で駆け寄ってくる。
 「ありがとうリック!!!!」
新たに呪文を習得した喜びがこみ上げてくる。よし、次も・・・!
そして俺は似たような感じで残りの術も次々とマスターしていった。
 「よっしゃ!」
なんだか今日は調子がいい。予想外の出来に俺はかなり興奮していた。
 「ただいま。調子いいみたいだな。」
父さんの声がした。
 「お帰り!うん!今日はね、サイクロンとアイストーネードとグレイブを覚えたんだ!ちゃんと制御できたんだぜ!!」
大声で言いながら駆け寄る。
 「へえ、頑張ったな。ファル。」
 「へへ・・・。」
くしゃっと頭を撫でられて少し照れながら後ろへ下がる。
 「ははは!ファルが照れてる!」
そんな俺をからかう声がする。
 「うっせえな〜!」
 「でさ、絶好調ついでに炎の呪文も練習してみたら?」
にこにこと笑いながらとんでもないことを言い出す。
 「で、できるわけないだろう!?」
 「え〜?なんで〜??他の属性は新しいのできたんだよ?ファイヤーボールくらいできるんじゃないか?」
 「ん〜〜・・・・・。」
そう言われてみれば・・・。属性相性関係つったってママは発見されてる呪文の全てを使いこなしてるんだし・・。息子の俺に出来ないわけないよな。うん!きっとそうだ!!
 「よし!やってるか!!」
 「お〜〜!!頑張れファルケン!!」
リックが嬉しそうに拍手をくれる。
 「任せろ!」
 「・・・大丈夫か?気合入りすぎてるような・・・。」
 「大丈夫だよ!任せて、父さん!!」
 「そ、そうか・・・?まあ、気をつけろよ・・。」
心配そうに俺の横に下がる父さん。心配性だな〜。今日の俺はなんでも出来るはずだ!「いい?ファルケン、魔法を成功させるには気合よ。」って、ママも言ってたし。
・・・・・・よし!ファイヤーボールなんて初歩なのじゃなくて・・・もっと派手なのに・・・!きっと父さんびっくりするぞ・・・!
 「天光満つるところに我は在り 黄泉の門開くところに汝在り・・・」
ゆっくり唱え始める。
 「・・・?」
詠唱を聞いて父さんが顔をしかめる。
 「生を司る存在 死を司る存在 形なき存在 形ある存在・・・」
・・・!身体が熱い・・・!思ったよりも強い力が身体を駆け巡る。
 「天光満つるところより 黄泉の門開くところへ 生じて滅ぼさん」
激しい昂揚感とともに詠唱を終える。さあ、あとは発動するだけだ。
あれ・・・なんかヘンだ・・・・。思いつつも高ぶってる精神にマナが反応してほとんどなにも考えられなくなっていた。そして・・・。
 「い・・・出でよ大地の炎!イラプション!!!!!!」
呪文を解き放った瞬間気付く。しまった!発動場所を指定してない!!
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
突然揺れ出す地面。目標は・・・真下!?
 「うわあ!!」
揺れ動く地面を割って勢いよく吹き上げるマグマ。灼熱の赤い液体が俺に襲いかかって来る!
死を覚悟し目を閉じる俺。
刹那俺の身体が弾け飛んだ。
 「チェスターさん!!」
リックの声が聞こえる。顔をあげるとそこには溶岩に飲み込まれる父さんの姿があった。
 「・・・・・・・!!」
あまりのことに声が出ない。
そして、噴出しきったマグマのあと、父さんの上に無数の火の玉が降り注ぐ。
 「うわあああああああああ!!!!!」
叫ぶ。叫ぶことしか出来なかった。
と、父さんが・・・!父さんが・・・・!!どうしよう、そうだ!水の呪文だ!さっきやったじゃないか、えっと、式は・・・!?焦って術に集中できない。ああ、こうしてる間にも父さんが・・・!ああ!死んじゃったりしたらどうしよう!!!嫌だ!!どうしよう!!!父さん・・・!!!
 「アイストーネード!!」
混乱した俺の頭に響く凛々しい声。いきなり発生した冷気の渦が溶岩と炎の玉を駆逐していく。
俺は・・・この時ほどママの声が頼もしいと思ったことはなかった。
 「リック!ミントを呼んで!!」
 「え。ああ・・はい!!」
ママの声に応え慌ててに教会へ向けて走り出すリック。
指示が終らないうちにママは、炎の残りをほうきで払い飛ばしながら父さんのところへ駆けていった。
煙が薄らぎ父さんの姿があらわになる。黒・・・。真っ黒だった。服は完全に焼け焦げ、全身は火傷だらけだった・・・。
 「うう・・・。」
小さく声を漏らす父さん。
 「チェスター!?しっかりして!!・・・・・・やばいかしら・・・?」
小さく舌打ちしながら抱き起こす。
俺は・・・。俺は何をした・・・・・・・・?
父さん・・・・・・・・!!
 「アーチェさん!!母さん連れてきたよ!!ちょうど帰り道に会ったんだ!」
かなり焦ったリックの声が聞こえた。
ミントさんは一瞬顔をしかめたが何も言わずに詠唱に取り掛かった。
 「全ての母なる優しき大地よ・・・」 
長い詠唱。歌うように祈りを紡ぎだしていく。非常識にも俺は歌姫って呼ばれるだけのことはあるな・・・と、ぼんやりと考えていた・・・・・。
 「キュア!!」
やがて術が完成し、あたりに聖なる光が満ち溢れる。光の粒子が螺旋とともに六紡星を描き、勢いよく父さんの中へと収束して行く。
 「ん・・・・・・・。・・・・・はあ・・あ・・あ・・・。あれ・・・?早いな、アーチェ。お前今日はお出かけだったんじゃないのか?・・・・・・・痛ぅっ!」
 「チェスター!!」
 「ファーストエイド!」
癒しの光が降り注ぐ。いまや父さんの傷はすっかり癒えていた。
 「もう!馬鹿!!」
怒ったような顔でママは父さんの身体を布で覆う。
 「ふう・・・。もう大丈夫ですね。」
ミントさんが微笑む。
 「ああ、すまねえな。ミント。」
 「いいえ。お大事に。」
いつの間にか俺の傍にリックが来ていた。
 「・・・・・・。」
何も言わずにハンカチを差し出してくれる。しかし俺はそんな気にはなれず、ずっとうつむいていた。するとリックはハンカチを俺の膝の上に落とすと背中に周り込み、もたれかかってきた。
 「・・・・・・・。」
何も言わない。リックの背中のあたたかさがたまらなくなって、また涙が溢れ出す。
ふいに俺の前に大きな影が落ちる。布を纏った父さんだった。
 「怪我はなかったか?」
しゃがみこみ、煤だらけの顔で優しく頭を撫でてくれる。たまらなくなって俺は父さんに飛び込んでいた。俺の涙が父さんの胸の煤を流す。その時初めて声をあげて泣いた。父さんは俺が泣き止むまでずっと抱いててくれた。
ひととおり泣いて人心地つくと今度はママが寄ってきた。
 「ママ・・・。」
 「てい!」
いきなり脳天にちょっぷを喰らった。
 「あんたね・・・。ファイヤーボールすらまともに使えないくせにいきなりイラプションなんか使おうとするんじゃないわよ馬鹿!い〜い?ママはね、この呪文書をこっそりあんたが読んでたことを、ちゃ〜んと知ってたんですからね。ついに炎の魔法を覚える意欲が湧いて来たのかと思ったらあんたって子は・・・!!」
そして早口でまくし立てる。
 「なにがむかつくって、この状況から察するに術の集中を怠ったでしょ!そんな生半可な気持ちで使えるほど魔術は甘くないのよ!」
さらにばっと両手を広げ自分を指し続ける。
 「それでなくともあんたにはあたしの血が入ってんのよ?こんな天才の魔力が暴走したらとんでもないことになるでしょうが!」
そしてちらっと父さんの方を見て、
 「チェスターも!あれくらいの魔法過去に何回も喰らったでしょう!?こんなことくらいで死にそうな顔なんてやめてよねまったく!だいたい、ダオスと戦った時はもっとすごい攻撃だったわよ!!?」
 「・・・悪かったよ。とっさだったし、なんの構えもしてなかったからな・・・。」
 「もう・・・、精霊弓の射手が聞いてあきれるわ。身体なまってんじゃないの?」
 「まあ・・・なんたって、お前の魔力で魔法攻撃喰らったようなもんだしな〜?」
 「冗談!あたしならもっと上手くやるわ!」
 「ほっほう、俺の弓に勝てるかな?」
 「そっちこそあたしの術の威力に勝てる?」
ひとしきり言い合った後ふたりは笑い始めた。
 「・・・もう、二人とも心配させないでよ。」
ママの笑顔のにうっすらと涙が浮かんでいた。
 「ごめんなさい・・・。」
つぶやく。心のそこからの言葉。
 「ごめんなさい・・・!」
再度つぶやく。
 「OK!わかってくれりゃいいのよ。」
 「失敗は成功の母、だろ?気をつけてな。・・・まあ、ぜんぜんこの言葉が役に立ってないのもいるけどな。」
 「・・・チェスター君、それって誰の何のことなのかしら?」
 「さ〜て、俺にはなんのことやら・・・。あ、でも何か心当たりがおありのようでお嬢さん??」
 「あ〜言ったわねえ〜〜!!今度から朝起こしてやんないんだから!!」
 「へ〜んだ!だいたいお前の・・・!」
いつものノリだ。今はそれがたまらなく嬉しかった。
いつのまにかリックとミントさんの姿はなかった。
辺りを見回す俺に声がかかる。
 「ファル!チェスター!あんたらさっさとお風呂入ってきなさい!汚いったらありゃしないわ。その間に食卓の準備しとくから!」
 「あ、は〜い!」
慌てて俺は家に駆け込んだ。


明日・・・ミントさんのとこに行ってこよう。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送