『テイルズオブファンタジア〜萌黄色の時・浅葱色の空〜ACT.1』 


やわらかな日差しが窓から差し込んでいる。白いカーテンが風に静かに舞い踊り、穏やかな平和さを楽しんでいるかのようだ。
 「よっと・・・。」
俺はベッドから抜け出すと魔術書の上に乱雑に脱ぎ捨てられた服を取り、慌しく着替えを済ませると
階下へと降りていく。台所からいい臭いが立ち込めている。今日の朝飯はどうやらトーストと昨日の
残り物のシチューのようだ。
 「父さん〜!腹減った〜〜!!」
我ながら大声でダイニングへ駆け込んでいく。と、そこには派手な服装の17歳くらいの女がいた。コレでも今年30になる。「あ〜あ、昔は中年中年〜!つってからかってたんだけど、あたしももうそんな歳か〜〜。」と、たまにぼやいている。
 「あら、おはよう。パパなら出かけたわよ?・・・なによ、その顔。あたしが料理してちゃおかしいわけ?」
不満そうに見上げる俺にこれまた不満そうな顔で言ってくる。
 「いいから早く顔洗ってきなさい。もうすぐ支度終わるから。」
しぶしぶ洗面所に向かい顔を洗う。はあ・・・まさか朝っぱらからあのご飯を食べさせられる羽目になるとは・・・。
 「安心しなさい!メインは昨日の残り物だから。」
テーブルにつくと紅茶をいれながら言ってくる。良かった・・・。とりあえず地獄の料理を味あわずには済んだらしい。この母は料理が下手なくせにするのが大好きだという欠点を持つ。とにかく腹も減っていたのでシチューを一口。
 「夕方には帰ってくるんじゃない?朝早くマナポイントの視察に行ってたみたいだから。」
 トーストにバターを塗りながら更に言う。
 「そう言えばさっきリックが遊びに来たわよ?まだ寝てるって言っといたから後でまた来るんじゃない?なんか精霊の森に行くとか言ってたけど。・・・・・・なによ、テーブルに突っ伏して。」
ぐぅ・・・。俺は全身を襲う謎の痺れに支配されつつ声を搾り出す。
 「ま、ママ・・・。料理になに入れた・・・・・・?」
 「へっ?え〜と・・・昨日のままじゃつまんないからちょっとアレンジ加えてみたんだけど・・・。どうやら坊やのお口には合わなかったみたいね〜・・・。」
しかしその目は明後日を見ている。ジト目で見つめていると「もう、しょうがないわね〜」とか言いながらパナシーアボトルを出してきた。「はい、コレ飲んどきなさい」いいつつ自分も口に含む。どうやら自分の料理の恐ろしさをすこしは理解しているらしい。父さんに聞いた話だと俺がまだ物心つく前にママの料理を口にして泡ふいて倒れて大騒ぎになったことが起因しているらしい。それ以来ヤケに慎重になっているみたいなのだが・・・まだ上達しない。こうやってたまに実験代にされることもある。
とりあえず、今日の朝ごはんは紅茶だけになりそうである・・・。

 昼。流れる川の中の魚の数を数えていると同い年くらいの少年がこっちにやってきた。
 「や!お待たせ。待った?」
 「ううん、あんまり。それよりリック、練習はもう終ったのか?」
 「うん。今日は父さんもいないし、母さんが今日はもう上がれってさ。」
リックはそこのアルベイン剣術の道場の一人息子だ。幼い頃ダオスの話を噂で聞いて自分が倒す!と、張り切っていたことがある。両親はしかたなく本当の話をしたらしいが、本人がどこまでわかってるか。リックのお父さんと俺の父さんとは古くからの親友で、俺も昔からよく家に通い詰めている。なんせリックのお母さんの手料理はめちゃめちゃ美味いのだ。そう、うちのとは大違いな・・・。ああ、思い出したらお腹すいてきた・・・。
 「そっか。で?今日は精霊の森に行くんだっけ?」
 「へへっ、それなんだけど。どうだ?今日は山道の方に行ってみないか?」
 「ちょっと、遠くないか・・・?」
えらくまた遠いところに行くことに決めたもんである。距離的にはたいしたことはないが、子供の足だとだいたい帰ってくるころに夕方にはなる。しかし、当のリックはそんなことはお構いなしだ。
 「大丈夫だって!君の魔法と僕の剣術があれば充分だよ。大丈夫、イケるイケる!」
どこかで聞いたような言い回しである。
 「俺、まだたいした術使えないよ?それにお前まだ、実戦向きじゃないってお父さんに言われてたじゃんか・・・。」
 「・・・実はさ〜、黙ってようかと思ったんけど今日初めて技が出来たんだ〜・・・!」
 「ほほ〜う、つまり早く使ってみたい、と・・・?」
 「うん!」
満面の笑みで返してくる。すごい幸せそうな顔。こいつの必殺技である。本人にその気はないのだが、よくこれで食い物を買う時なんかに得をしている。例えるならばチャームボトルをすこしばかり降りかけたような、そんな笑みだ。おかげでうちのママが買い物のたびに連れて行きたがるから困ったものだ。それはさておき。
 「もう〜・・・しょうがないな・・・。んじゃあ、一応ママに言ってから行かないと。」
さらに念のためと家から持ち出してきたグミの山を見せられて結局折れてしまう俺。
 「だめだよ!そんなことしたら母さんにばれちゃうじゃないか!」
 「おい・・・。」
 「さあ、出発!!」
いきなり走り出す。やれやれ・・・。まあ、いいか。山道の頂上ならシルフの谷にも近い。まあ、間にユークリッドを挟むことにはなるが。もしかしたら父さんに帰り道に会えるかも知んないし。そんな軽い気持ちで俺もリックの後を追いかけて走り出した。

 「ふう、ここは風が気持ちいいな〜。」
リックが伸びをしている。ミゲールとユークリッドの間に位置するこの山道は切り立った自然の崖の中にある。穏やかな風が草を揺らしている静かな場所だ。ここにいると何故だか悠久を渡る風の中に溶け込んでしまいそうになる。
 「ここはローンヴァレイに比較的近いからね。このヘンの風はシルフの精霊力を強く受けてるんじゃないかってママが言ってたよ。」
 「へ〜、そうなんだ。」
ここまでは割りと平坦な道のりだった。一応持ってきたホーリィボトルのおかげでモンスターにもあまり出くわさなかったし。帰るまで出くわさなければありがたいのだが・・・。
 「ここまで来たからには、当然山に登っていくよね!はい、出発!!」
 「元気だな〜〜・・・・・。」
やや疲れている俺とは対照的にやたら元気なリック。このヘン小さい頃から身体を鍛えてきたものとそうでないものとの違いなのだろうか。まあ、俺は朝もまともに食ってないし・・・。あ〜、リックのほうが1個下なんだけどな〜・・・。ほうき、持ってくりゃよかったかな・・・。

 ちょうど時間的にお昼を廻った頃だろうか。そうこうしているうちに山頂にたどり着いた。途中、はしゃぎすぎたリックが崖から落ちそうになったりといろいろあったが、なんとか無事にたどり着いた。鳥を見ながら歩いていたリックが壁にぶつかりそうになったりもしたけど、まあまともにたどり着いた。かと思いきや話に夢中になって後ろ向きに歩いていたリックが、つまづいて転びそうになり結局俺を巻き込んで倒れたこともあったが(略)。リックのヤツ・・・。
 「あ〜、腹減った!」
なにごともなかったかのように弁当を広げ始めるリック。って、弁当!?俺そんなの持って来てない・・・。しまったどっかで買って来るべきだった・・・。はう、むしろ自分で作る練習をしたほうがいいかもな。いつ今日みたいに父さんが出かけるとも限らんし・・・。
 「はい、君の分!」
そんな俺の心のうちを見透かしてか単になにも考えてないのか(たぶん後者)、俺にサンドイッチを半分さしだしてくれた。こいつ・・・!現金なようだがこいつのこういうところがたまらなく好きだったりする。俺が困ってると何気にこうやって助けてくれる、いいヤツだ・・・。
 「・・・あ、ありがとう・・・。」
 「どう?美味いだろ〜僕の母さんのサンドイッチは。精霊の森に行くって言ったら作ってくれたんだ! 」
 たぶん、量的に見て俺の分も入ってたんだろが、その時の俺にはわからなかった。
 「うん!最高だよ!!」
サンドイッチには薄くスライスしたボアの肉と野菜がはさんであった。肉の臭みと油分もちゃんと抜いてあり、ハーブで味付けしてある。少しだけかけてあるソースがまた絶妙で朝からまともに食事してなかった俺にとって非常に美味しかったことを覚えている。
 「はあ・・・俺のママももう少し料理できたらいいのにな・・・。」
 「そういえば、君まだ「ママ」って言ってるね。なんで?」
 「いや、ママがそう言わせたかったらしくて・・・。父さんはパパって言うの嫌がるからこっちは普通に呼んでるんだけど・・・。」
 飲み水を魔法で出してリックに渡してやる。
 「そっか。そういえばそうだね。ああ、なるほどね〜、どおりで・・・言いそうだもんね〜、あのヒト。あ、ありがとう。」
 二人でしばらくカップを片手に景色を眺めていた。山の頂上(通り道だが)の一本生えた裸の木の根元。優しく風が俺たちをなでていく。遠くのほうには段を重ねて連なる崖の海。霧が立ち込めているのが見える。空を見上げると雲がゆっくりと流れていく・・・・。なんだかこうしているとまぶたが・・・・・。

 目が覚めると夕方近かった。横でリックがぐっすり寝ている。
 「う〜・・・むにゃ・・・。」
って、こんなトコで熟睡するなよ・・・。俺も人のことは言えないけど。・・・とにかく早く帰らないと。今からじゃ町につく頃には夜になってしまう。
 「リック、起きろよ。」
すこし揺さぶりをかけてやる。と、その時後ろの方に気配が生まれた。誰か来たのかと思い振り返ってみるとそこには毛むくじゃらの二足歩行をするヘンな生き物がいた。バグベアだ!
 「り、リック!!早く起きろよ!!」
俺はそいつから目を離さないようにしながら必死でリックをゆすった。こうしている間にも俺たちをまるで獲物でも見るような目つきでこっちを眺めている。いや、実際彼らにとっちゃ獲物なのだろう。
 「ん?朝・・・?」
のん気に目を覚ます。
 「ば、馬鹿!状況を見ろ!!」
 「おお!モンスター発見!喰らえ修行の成果!魔神剣!!」
だんだんと覚醒に向かいその目がバグベアに止まった瞬間、起き上がっていきなり攻撃をしかけるリック。って、おいぃ!!攻撃は見事ヒットした。その攻撃はバグベアを怒らせるには充分過ぎるほどの威力があったらしい・・・。
 「やった!見た見た??俺の初の技、魔神剣!」
嬉しそうにこっちを見てくる。敵を見ろおおおお!!心の中で叫びつつ詠唱を終らせ、術を解き放つ!
 「アイスニードル!!」
虚空に出現した氷の刃がバグベアの目を切り裂いた!
 「ねえねえ見た?」
しつこく聞いてくる。
 「ああ、見たよ!」
その間にも痛みで狂ったように棍棒を振り回しながらこっちに向かってくるバグベア。バグベアの力は物凄い。まともに喰らったら俺たちの頭蓋骨くらい簡単に砕けるだろう。
 「どう?すごいだろ〜!かっこよかった??」
まったくこいつは緊張感がない。
 「ストーム!!」
とりあえず風の術で動きを封じる。どれもまだ初歩の術しか使えないのだ。なんとかこれで押し切るしかない。バグベアが相手なのだから本当はファイヤーボールが使えたらいいのだが、何故か俺は火の術は使えなかった。ママ曰く属性の相性があわないらしいからなのだが・・・。ともあれ今はそんなこと言ってる場合じゃない。なんとか倒さないと・・・!
 「ああ、かっこよかったよ!」
神経はバグベアに集中しながら返事を返しておく。次の術は・・・。
 「やった〜!!」
その時風の呪縛から抜け出したバグベアがリックに襲い掛かる!詠唱は・・・まだ!リック・・・!!
 「うっさいな!飛燕連脚!!」
どかげしばきっ!!リックの蹴りをカウンターで喰らい地面に倒れるバグベア。その時ようやく俺の術が完成した。
 「ストーンブラスト!!」
小さな石の雨がバグベアの頭を潰す。辺りに血の臭いが漂う・・・。
 「はあ・・はあ・・なんとか倒したか・・・・。」
 「おお!いつの間にかまたもや新しい技習得だ!・・・・・・。・・・うう、気持ち悪い・・。」
やたら嬉しそうなリックだったがバグベアを目の当たりにして口を押さえる。
 「おま、お前、緊張感なさすぎだ!!」
なんとか倒したとはいえ今のことを言っておかないと。
 「へ?・・・ああ、ごめん・・・。だって・・・あんまり怖くなかったし・・・。」
 「そういう問題じゃない!!」
怖くなかったんかい・・・。
 「君と。・・・ファルケンと一緒だったからさ、絶対なんとかなると思ったんだ。」
ぼへら〜っと微笑み返してくる。ぐぬぬ・・・そういう言い方されると何も言えんじゃないか・・・。
 「え〜と・・・。いやだから・・・。」
瞬間、俺の背後に鳥の気配が生まれた。
 「危ない!」
リックは俺を突き飛ばして斬りかかり、その流れで敵を遠く蹴り飛ばす。しかし鍛えてるとはいえ所詮子供の力。そう遠くまでは飛ばない。
 「・・・プレデター・・・。」
呆然と俺はつぶやいた。アウルの上の種族である。無理だ、今の俺たちのレベルじゃ・・・。
 「ファル!呪文は!?」
今度ばかりは敵を睨みつけながら叫んでくる。
 「でも・・・!」
 「諦めるな!やってみなくちゃわかんないだろ!!」 
紙一重で攻撃を避けながら強い口調で言う。
 「わ、わかった・・・!」
とにかく詠唱を開始する。
 「うわあっ!!」
一直線に襲い掛かるプレデター!その一瞬敵が何故か動きを空中に止めた。
 「ライトニング!!」
夢中で術を放つ。一条の雷撃に身体を焼かれ敵は地面に落ちた。
 「これで終わりだ!!」
リックが大きく斬りつけると敵は動かなくなった・・・。
 「勝った・・・・・・。」 
 「な、倒せただろ?」
リックがあの笑顔で得意そうに言う。
 「僕たちの前に敵はない!」
安心したせいか俺も何故か笑い出してしまう。
気が付くとあたりはすっかり黄昏色に変わっていた。
 「やれやれ・・・。調子に乗るんじゃないリック!」
 「まあ、頑張ったほうだけどな。」
すっかり気の抜けた俺たちの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
 「父さん!!」
思わず駆け出していた。
 「よう、ただいま。・・・まさか、こんなトコまでお出迎えとはな。嬉しいぞ、ファルケン。」
 「う・・・。」
 「こんなに遠出して・・・。ミントには言ってきたのかい?」
 「え〜と・・・。」
思わず汗ジトモードになる俺たち・・・。
 「まあ、僕たちに会えてよかったよ。このまま君たちだけで夜道を帰るのはちょっと危ないからな。」
クレスさんが優しく言ってくれる。
 「帰ったらしっかりお説教だけどな。」
父さんが意地悪そうに笑う。
 「あ!そうだ、あのね、僕魔神剣と飛燕連脚を習得したんだよ!!」
 「へえ、すごいな。僕が子供の頃はあと10年くらいしないと覚えられなかったんだけど。でもな、リック。本当の強さってのは技の多さじゃないんだぞ?」
 「わかってるよ、父さん!」
相変わらず、元気いっぱいのリックであった。
 「そろそろ帰るぞ。すっかり遅くなっちまったぜ。アーチェたちになんて言われるか・・・。」
 「あはは、そうだね。」
町へと歩き始める俺たち。初めての大きな戦闘に疲れた身体に山道の風が心地いい。
そして、プレデターの躯に一本矢が刺さっていたことに俺は最後まで気付かなかった・・・。

そんな感じでアセリア歴4317年。俺、ファルケン・バークライト8歳と、リック・アルベイン7歳は平和に暮らしていた。

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