太陽 〜song of Kobukuro〜



あの夏の太陽。追いかけ裸足で走った。
遠い町から来た・・・・君は僕の太陽 ―――

・・・・・・・・・・・・・・

 「おい。マサやん。転校生くるってしってたが?」
 「転校生?」
7月上旬。
季節はそろそろ夏に入り、にわかセミの鳴き声が聞こえてくる頃、親友のナオスケは言った。
 「んだ。さっき職員室で聞いたんだがや・・・女の子だげっちょ。」
福島の田舎の村。特に娯楽もなく、俺達子供にとって少しばかり退屈な村。
椅子でシーソーよろしくバランスをとりながら俺は呟いた。
 「関係ねげっちょ。」


・・・と、思った。その時は。
鼻に挟んだ鉛筆が落ち、木造の床に転がる。
 「親御さんの仕事の関係でこっちに越してきた鈴木奈美ちゃんだ。仲良くするよーに。」

思った。他の娘たちにはちっと悪ぃけど・・・。

こうも違うものなのかって。


 「席は・・・マサの隣空いてるな。暫くそこに座っていてくれ。」
俺の身体がびくっと振れあがる。
 「は・・はい。」
少しあどけない口調で彼女は呟き、俺の横に腰掛ける。
 「あ・・あの・・」
 「・・・んだべ。」
 「えっと・・・よろ・・しく。」
 「・・・・・・・ん・・・」

自分を呪った。俺ってこんな男(ヤツ)だったのか?
話したいけど・・・話題ねぇし。

その日、俺は夢を見た。あの女の子と話している夢。夢の中の俺は笑っていて。

次の日、あの子とは話さなかった。話し掛けてくれたけど・・・無視した。
・・・愛とか恋とか・・・小学生の俺にはよくわかんなかったんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

7月8日。
 「マサやん!また上下になるといいでなぁ!」
ナオスケが笑いながら言ってくる。
 「・・・なんよ。知らんのげ?今日は席替えだべ?」
・・・知ってたさ。結局なんも話せないまま離れ離れになるんか?
嫌だ。七夕様にもお願いした。

また・・・あの子と隣にしてくれって。


 
 「よかったなぁ!マサやん!また近くだべ!」
ナオスケ・・・呑気なもんだよ。こっちはブルーだってのに。
ずっと・・・遠くの席にあの子は座っている。
近くの女子達が仲良くなろうと話し掛けている。
あの子は・・・楽しそうだった。
 「・・・ん?マサやん元気ねげなぁ・・・」
 「・・・・」

 「それじゃ、今日はここまで。みんな寄り道しないで帰るよーに。」
 「「「先生ぇさようなら〜。」」」
申し合わせたような挨拶を終え、放課後、皆騒がしい。
今日遊ぼうとか、川に行こうとか、駄菓子屋でアイスを食べようとか。
それでもそんな気になれず、うつむく俺に、あの子はなにか渡してくれた。
黄緑色の小さな手紙。


 『いっしょに帰ろう。』


・・・・・・・・・・・・・・・・

鼓動が打つのが止まらない。
なんか・・恥ずかしくて。上手く話せない自分が恥ずかしくて。
・・・と。
さっきまで快晴だった空が曇り、暗くなってゆく・・・。

夕立だ。

 「ふ・・降ってくるげっちょ、走るべ!」
 「う・・うん!」
うえぇえええ!!?降ってきたよ!
走って走って走って。雨宿りに丁度いい木かげで、俺は呟いた。
 「・・・突然降ってくるんげちょなぁ・・・」
 「うん。だね。・・・ひゃっ!?かみなり・・・?」
夏の夕立はしつこい。雷まで鳴って、なんだか最悪。

・・・・あれ?そーいえば・・・

急に気になった温もりに俺はたじろいだ。
・・・手、握ってる。
あの子は気づかないのか・・・。雷が鳴るたび強く握ってきた。
ぎゅっと・・・ぎゅっと。握ってきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 「残念な知らせだ。この度、鈴木奈美は東京の実家に帰ることになった。」

鼻に挟んだ鉛筆が落ち、床に転がった。
7月の下旬。あさってからは夏休みと皆が有頂天になっていた時期だった。
名前も知らない町に行ってしまうらしい。
昨日は・・・トンボの話しかしなかったのになぜ?
どうして言ってくれなかった?

・・・言うまでもない。

俺と・・・同じ気持ちなんだろう。



あの夏を最後に、あの子の姿は見ていない。
ケド。だけど。
・・・これだけは言える。


あれが・・・・・俺の初恋だった。




誰もが胸焦がした、あの初めての恋のように。
誰かをまた優しく。愛せればいいな。

俺は福島の村から少し離れた高校に通っている。
普通科、2年。今彼女と付き合って1年になる。

けれど。あの頃の初恋は確かなものだった。

また、会いたいとは思わない。
きっと・・・会えないだろうし。
あの顔、透き通った声、あの手の温もりは俺の目、耳、肌が覚えている。
だけど・・どうしても名前だけは思い出せなかった。


俺は福島の村で、妻とふたりの子供を養っている。

けれど。あの頃の初恋は覚えている。


あの夏の太陽。追いかけ裸足で走った。
遠い町から来た・・・・君は僕の太陽 。


君はもう戻らない。



君は。僕の太陽 ―――




                     This words from Kentaro Obuchi ―――

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