旅はここから。
「ねぇねぇ。久々に会ったんだしさ〜♪見晴らし台に行ってみない?」
ファラの一言に、俺とキールは椅子に身体を沈ませた。
「ワイール♪見晴らし台直ったのか?」
「うん。私達が旅に出てる間村の人たちが直してくれてたんだって。」
「・・・そーいや俺達の旅もここから始まったんだよな。」
「・・・僕の旅は違うけどな。」
「え?違うことないよ〜。キール覚えてないの?私達の旅はメルディが来る前から始まってたんだよ!」
「バイバ!そーなのか?ファラ。メルディ知らなかったよー。」
「うん。あれは・・・5年前の夏だったかな?」
・・・・・・・・・・・・・・・・
リッド・ハーシェル13歳。
昨日からミンツから帰ってきているキールにどうしても会う気がしなくて、ベッドの上で寝そべっていた。
別に喧嘩別れしたわけでもないし、熱が冷めたわけでもない。
ただ、なんとなく会いにくかった。
「リッド〜。キールに会いに行かないの?おっきくなってたよ〜♪・・・それなりにだけど。」
「あ?別にいいよ・・・。」
ぎし。木製のベッドが軋み、俺は起き上がった。
壁に立てかけてある剣を拾い、肩に乗せ、ファラとすれ違って扉に向かう。
「どこいくの?」
「狩り。」
単直に呟くと、俺はそのまま家をあとにした。
キール・ツァイベル12歳。
夏休みとは、無駄なものだと感じつつ、家庭教師の奨めで親と共に実家のラシュアンに昨日帰ってきたのだ。
今朝、ファラが会いに来た。彼女は一頻り喋り、笑い去ってゆく。
別れ際にリッドと会ったら?と聞いて来たが、僕は会う程のものでもないと思っていた。
学校からはたくさんの宿題も出ているし、この夏に、幾らか本も読みたいと思っている。
別に・・・ただ興味はなかった。
「・・・ふぅ。」
ぱたん。本の隙間から金製のしおりが顔を出し、僕は本を無造作に机の上に放り投げた。
家庭教師が誕生祝いにくれた金のしおりが少しずれる。
「・・・少し休憩しよう。朝から机に座りっぱなしだ。」
僕は呟くと、首を鳴らし、香茶を飲み干し、家を出た。
ただ、息抜きができれば。そう思っていた。
アイツとであったのは直後、村の少し離れた森の近くだった。
無駄に鍛えあげられた筋肉。学のなさそうな呆けた顔。僕は少し呆れさえした。
ひょろひょろの身体。蒼白い顔。なんだコイツ?ちゃんと飯食ってんのか?
「・・・久しぶりだな。リッド。」
「・・・おぉ。」
そのまますれ違い、去ろうとする。
・・・刹那。
「なによそれぇええ!!」
草むらから何かが飛び出したかと思うと、足の底が見えた。
・・・のも束の間、ファラの飛び蹴りがキールを薙ぎ倒し、俺は剣の鞘で受け止め、後ろのめりになる。
「久々に会ったと思うとそれだけ!?もっと他に言うことあるでしょ!・・・・・ん?」
一息にファラがまくし立てると、俺達3人は大きく身体が沈んだのを感じた。
尻の下でなにやらメキメキ木が悲鳴をあげている。
「や・・やべっ!?」
「きゃ・・きゃあ!?」
「う・・・うわぁああああ!!??」
・・・・草むらの裏、そーいえば小さな崖になっているのに俺はこの時気がついた。
「あいたたた・・・・皆、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ!なにすんだ!いきなりっ!」
「だって〜。久々に会ったのにあれじゃ味気ないでしょ?」
「あ・・味気ってなんだよ!意味が分からない!」
キールは腰を打ったらしく、情けないポーズで講義している。
・・・と言う俺も結構痛かったケド・・・。
「まぁいいじゃない♪わ〜。久々に揃ったわね♪」
・・・なんでコイツ無傷なんだ?
「揃ったって・・・なにが。」
「仲良し3人組じゃない♪ね。キール大きくなってるでしょ?・・・キールなりに。」
「さ・・最後のは余計だ!」
「・・・おい。んなことよりこりゃやべぇぜ・・・」
俺は頭を擦りながら立ち上がった。
鬱蒼としげる緑。感じたこと無い空気。そして・・・殺気。
「ここは人の立ち入らない場所だ。空気で分かる。・・・やべぇ魔物が居そうだぜ・・・?」
「な・・・どーするんだよ!ちゃんと道は分かるんだろ!?」
「さぁ・・・な。どーにも言えねぇ・・・」
「お・・おいおい・・」
「ま・なんとかなるでしょ♪うん。イケるイケる!」
「「イケねぇ!!!」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・あったな。そんなこと・・・。」
「バイバ!ファラその時からやんちゃだったんだな〜。」
「あ・どーいう意味よ。」
「そーいう意味だ。」
「で?そのあとどーなったか?ファラぁ。」
「えっとね・・・確かおっきぃベアが出てきて・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁあ!!魔人剣!!」
ビシュゥウウウウン!!!
俺の剣撃が地を這い、突如姿を現したベアに直撃する。
バシュウン!
軽い音とともに掻き消された気合の具象が、ベアの右手にかすかに残っていた。
「リ・・・リッドぉ・・・」
「う・・うるせぇ!イケんじゃねぇのかよっ!」
「う・・・うわぁあああ!!?は・・早くどーにかしてくれっ!」
「・・くっ!」
ベアの咆哮が響いたと思うと・・・。
「速・・・っ!」
瞬間で詰めてくる間合いに俺はたじろぎながら剣を振るった。
ビシィイイ!!
無残に、俺の剣は宙を舞い、はるか後方の地面に突き立てられる。
・・・絶体絶命だった。
「・・・おい。」
「・・・なに?」
「・・・アレだ。」
「・・・なんだよ・・・」
「・・・行くぞ・・・?」
「「・・・え?」」
「逃げろぉおおおおおおお!!!!!!!!!」
「「な・・なにぃいいいい!!!!????」」
俺の猛ダッシュに慌てふためきながらファラとキールが駆ける。
真後ろに走り、剣を瞬時に回収し、俺は駆けた。
森を、緑を、蔓を、殺気を。
背後に殺気が近づく。
来る!・・・すぐそこに!!
・・・・そこで俺は目を覚ました。
布団は汗で濡れ、微かに動悸をしている。
その後。俺はなんとなく見晴らし台に行ってみた。
すると・・・そこにはファラとキールが居た。
不思議なことに・・・2人とも同じ夢を見たらしい。
俺の力が及ばず・・・
ベアの一撃が決まろうとするその瞬間を。
俺は・・・誓った。言葉には出さなかったけど。
強くなろう。強さは変われる。
「・・・なぁ。いつか・・・旅に出ようか。」
今考えれば驚いたモンだな。旅のきっかけは・・・まさしく俺だった。
「なぁに?リッド珍しい。」
「旅なんて野蛮な・・・僕は勉学に励むさ。」
そーだな。変わんねぇよ。あの頃も。今も。
変われる強さ。変わらぬ思い。
・・・・誰がそー言ったんだろな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど〜♪そーいうことだったのかぁ。」
見晴らし台の上で寝そべり、メルディが満足そうに笑った。
「そーいえばなんであの時同じ夢、見たんだろね?」
「さぁな。科学的に証明できる出来事なんだろう?でないとあり得ない。」
「・・・なぁなぁリッド・・・袋が・・・光ってるよ?」
「あ?」
「あ・リッド旅の時の袋持ってきてる〜。」
「うっせぇな。くせなんだよ。・・・って・・なにが光ってんだ?」
「それは・・・闘技場で金髪の剣士から貰った剣・・か?」
「・・・みたいだな。」
「ねぇねぇ。もしかしたさ〜。その剣が私達に本当のこと教えてくれたりして♪」
「・・・どういう理屈だよ・・・」
「例えば・・・この剣が私達をあの頃に連れて行って、本当は未来の私達が過去の私達をベアから救った!・・・とか?」
「・・・・あのなぁ。」
キィィィィィィン!!!
剣が発光し、周囲を照らす!
お・・・おい。まさか・・・・
またファラの言ったことがホントになるのか?
グランドフォールん時みたいに。
オ・・・オイ!ちょっと待て・・・!
光が収束し、リッド達を包む。
刹那・・・ラシュアンの見晴らし台から人の気配が消えた。
・・・変わらぬ思い。・・・・誰がそんなこと言ったんだろな?
END
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