〜魔術士オーフェン異語辺 我が語りに来たれエルフ〜

 

第3章 迷う魔術士

 「我は放つ光の白刃!!」
ギュオォオオン!!!閃光と爆裂が大地を揺るがし、虚空には男の断末魔が響き渡った。
前方には黒こげた男が3人・・・。
オーフェンは苛立っていた。
訳も分からないまま、トトカンタを飛び出して1週間。
これで4度目の盗賊の襲撃であった。
 「成りませんなぁ。魔術士殿。」
キースが言う。
 「盗賊と言えど生きとし生きるもの。問答無用に生きることを否定してあげては失礼です。」
 「ほぅ・・?」
 「しかし一度悲劇が起こってしまっては仕方のないこと・・。二度目が繰り返されないようにしなてはなりません。」
 「・・更正させろと・・・?」
 「いえいえ、滅すれば早い話です。」
あくまで無表情に放つキースの言葉を糧に、盗賊3人は、更に香ばしく焼きあがった。
 「さぁこのようにこんがり焼いてしまえば2ヶ月間、24時間火傷に苛まれるでしょう。」
とんでもないことを吐きながらキースは人差し指を立てる。
オーフェンは・・苛立っていた。

 

 「あ・見えてきたよ〜。」
上空からアーチェが指差しながら喚いている。
 「お〜。どうだ?様子のほうは」
 「ん〜至って普通だわ。まぁさか思ってもないでしょうね。盗賊が紛れこんでるなんて。」
盗賊の巣くう村。
一見、普通ののどかな村ではあるが、先日の情報によってはどうやらなかなか勢力のある盗賊団が居座っているとか。
特に教会信者でもドラゴン信仰しているわけでもない変哲のない村。
そのために力がいるのか知らないが、その盗賊を受け入れているのか・・
若しくは気づいていないのか。

 
 「そもそもなんで急に盗賊退治なワケ?」
アーチェが訝しげに仁王立ちで問い掛けてきたのは丁度昨日の夕方だった。
貝のパスタを突付きながらオーフェンは淡々と呟く。
 「あのなぁ・・なんだっけ?ダオスか?そいつを追いかけるのはいいんだけどよ。完全に情報不足だ。特に行くとこもねぇだろ?」
 「だからってなんで勝手に変な依頼引き受けるのよ・・?」
だんっ!!オーフェンが机に手をたたきつけながら喚く。
 「だぁあ!!俺じゃねぇっ!そこの奇妙奇天烈変人執事が勝手に拾ってきた依頼だ!!」
 「はっはっは。魔術士殿何をそう怒っているのです?」
 「・・・かはぁ・・・・」
一気に脱力するオーフェン。
 「・・・仕方ない・・ってね・・」
 「まぁ元々旅費もくそもねぇんだ・・くそっ!クリーオウのやつから出立の日奪う旅費に期待してたのに!」
 「どういう意味?」
 「ああ?あの娘、どーせ俺等に着いて来るつもりだったんだ。即ち自分の小遣いくらい持ってくるだろ?あいつん家は金持ちだからな。
  それで悠に旅の出だし金になると踏んでたが・・・あの野郎・・完全に自分のお菓子代ほどじゃねぇか!!」
 「・・そーいう意味ね・・」
アーチェは深々と嘆息した・・・。


外から見たのではやはりなんでもない普通の村である。
平凡で、村にはひとつ大きな道場が活気を誇っていた。
依頼書を一通り見ながらオーフェンはある一文にどうしても理解できない。
 『一夜にして現れた村。地図にさえ記されていない。この詳細も調べてくれれば金貨200枚追加。』
一夜にして現れた。そう。忽然と。
このことはアーチェには言っていない。(もちろんキースも。話がこじれるゆえ・・)
 「・・・さて・・宿でも取るか・・行動は今夜。せいぜい体休めるんだな。」
言うとオーフェンは早々宿の2階へと上がってしまった。
残されたアーチェとキース。
なんでかやはりきをつけの姿勢のキースを横目にアーチェはきびすを返していってしまった・・
・・・キースには関わりたくない。
そう鮮明に背中に写し描きながら・・・

・・・・・・・・・・・・・

 (さて・・どっしよっかな?)
辺りをうろつきながらアーチェは思考を巡らした。
村に到着したのは丁度・・・昼時か。
活気が溢れる時間帯で、特に道場からは激しい竹刀の音と、気合の掛け声が響いてくる。
 (・・なんでだろ・・あたしこの村知ってるかんじがする・・う〜・・なんだっけ?)
歳には勝てないのかどーしても思い出せない。
それでも・・アーチェの体はこの村を知っていて、自分の行く場所が分かるような気さえした。

ひょこっ。行く宛てもなく来てしまった道場。
金髪の男が師範か・・・
結構なかなか渋いかっけぇおっちゃんだけど、どっちかってとお父さん系よね〜♪
と思いつつ、稽古の様を傍観する。

 「ま・・ここに居ても仕方ないかぁ。」
呟きながらアーチェはきびすを返し行ってしまった。
今日の行動は夜・・・とにかく今は体を休めなくては・・・。



アーチェが行ってから数秒。
丁度向いの道から人影が現れた。
つり上がった目。背中には矢筒を背負い、片手に弓を掲げていた。
男は道場の前に差し掛かると道場に向かって・・・

 「お〜いクレス!行くぞ〜!!」

村は・・・今だ活気を失わなかった。


・・・・・・・・・・・・・・


 「盗賊・・っても向こうの風貌、技術はどちらかというと軍隊に近いらしい。」
オーフェンの客室に集まり、いわゆる作戦会議を開いているのだが・・
キースは今度は正座でオーフェンの話に耳を傾けている。
あたしはって言うと茶菓子をぱくつきながら楽に座っている。
 「当然戦闘も並ではない。・・まぁ普通の人間にしてはってことだ。」
 「普通?」
 「あぁ。資料によると奴等が魔術を使用したという記録はない。
  ゆえにただの武力軍団か・・まぁこっちは魔術士三人。敵じゃねぇってことだ。」
オーフェンが紅茶をすすり、一息つく。
ふと外を見やると、さっきまで快晴だった空が曇ってきている・・。
こりゃ雨が降るな・・・
オーフェンが呟くと・・。


カンカンカンカンカン!!!!!


村の中央から金属がぶつかる音が響く!
それは・・広場に佇んでいた塔の上に備えられた警鐘の音。

アーチェは何かが頭の中でフラッシュバックした。
村。道場。雨。警鐘。そして・・・・

複数の男の罵声と、掛け声。
・・まるで戦闘が始まったような情景にオーフェンは反射的に宿を飛び出していた。
続けてキースも。
残されたアーチェは痙攣したまま地面にへたれこむ。

 「そんな・・・ありえない・・意味分かんないよ・・・」
決定付けたもの。
オーフェンが落としていった依頼書である。

そこには確かにこう・・書かれていた。


 『トーティス村に潜む盗賊退治。』


・・・・・・・・・・・・



 「我は放つ光の白刃ッッ!!」
きゅぼぅうううう!!!
オーフェンの放った魔術が村の中央部分。広場の土を吹き上げ、爆発を引き起こした!
後方に吹き飛ぶ盗賊たち。
盗賊・・いや。やはりそれは正しい表現じゃない。
漆黒の鎧を纏った騎士団は尚も殺戮を引き起こし、村を襲撃していた。
 「止めろッ!!」
オーフェンの声も虚しく、殺戮は広がってゆく。
 「キース!てめぇはあっちのほうの野郎を止めろ!!」
 「承知です。」
案外素直に聞き入れたな・・・
多少の不安はあるがオーフェンはとりあえず身近な民家の扉を蹴破った。

 「・・・無人・・なのか?」
ひっそりした民家は人の気配がない。
暗がりの中、オーフェンは口中で呪文を解き放った。
 「・・・我は生む小さき精霊。」
ぽう。掌から発生した光は漆黒を蝕み、室内を照らし出した。
 「・・・どうやらいねぇみたいだな。」
ふとテーブルに目をやるといくつかの料理が並んでいた。
椅子はふたつ。オニオンのスープがなんとも言えない芳香を漂わせている。
オーフェンはかぶりを振ると外へ出てしまった・・・。


 「殺せ!!ここは盗賊の町だ!皆殺しにしろ!!」
張り上げた声がふいにアーチェの耳に入った。
盗賊の町・・・どっちが!
はがゆみしながら箒を片手に2階の窓から飛び立つ!
どういう訳か分からない。これは幻なのか・・・
だけれど!止めたい・・!幻の世界でもいいから・・トーティスを救いたい!

 「待ちなさい!!」
 「・・む?」
騎士の一人が空中に漂うアーチェの姿を訝しげに見上げる。
 「この村に盗賊なんていないの!あんたたち騙されてるだけっ!!」
 「貴様・・なにものだ!!」
 「いーからさっさと帰んなさい!でないとぶっ飛ばすわよ!?」
 「矢を放て!魔女だっ!!」

下界から飛来する矢を箒の操作で交わしつつ、急降下をかます。
地面ギリギリのところで箒がホップしたかと思うと、騎士達の足元が同時に爆砕していた。
 「ぬあ・・!?」
 「馬鹿なことやめなさいっ!!」
 「おのれ・・・!」
アーチェの箒の後ろをとっさに引っつかみ、男が罵声をあげた!
 「ぬぅううんっ!!」
筋肉隆々・・・なのであろう。
アレを止めるか!?普通っ!!
アーチェは強くぶつけた背中を擦りながら立ち上がった。
周囲には・・・騎士達が10人ほど・・・
村は既に燃え上がり、人の気配がなくなりつつあった。
悲鳴もない。

アーチェは一歩一歩後退し、間合いを広げて行った。
広げた間合いが一歩、確実に責められている・・・。
とんっ。アーチェの背中に壁があたった。
 (・・・この家・・?)
アーチェの背に佇む民家。・・・バークライトの家だった。
一瞬チェスターの顔が脳裏に浮かぶ。
同時。アーチェはある思考にかられる。
 (アミィちゃん!!)

助けたい。あの子は。あの子だけは!!
アーチェは祈るように駆け、民家へと転げ込む。
丁度横にあった窓を突き破り、2階へと駆け上がる!
騎士達の罵声と足音を精一杯無視するように階段を上がり詰め・・・!


アーチェはうな垂れた。
血が木の床を紅く染め、その惨劇を赤々と表現していた。
 「・・・・・」
アーチェはそっとアミィの頬に触れようとした。まだ体温が残ってるかもしれない・・・
チェスターの代わりに・・・アミィの最期を看取るんだ・・
手がアミィの頬に触れ・・・・・

・・・・ない。
触れれない?アーチェは涙を拭い、もう一度試みる。
頬まで近寄った右手は頬に触れる瞬間、抵抗なく空に触れてしまう。
そう。アミィが・・・透けている。

ダンッ!!
同時に騎士達が2階のアミィの部屋へと飛び込んできた。
 「死ねぇえええ!!!」
騎士の一人が振り上げた長剣!防御が間に合わない!!



騎士の振り落とす長剣が深々とアーチェの頭を叩き斬っていた。


・・はずだった。
剣は無抵抗にアーチェをすり抜け、地面に食い込む。
戸惑うだした騎士達。

 「そーいうこった。」
この声!入り口に佇む騎士達の間を拭うようにオーフェンが立っていた。
 「オーフェン!!」
 「ようやくどういうコトか分かった。この村は残念思考なんだ。ある人物の記憶・・ってトコだな。」
 「記憶・・記憶が具現化するわけ?ありあえないわよ・・そんなの。」
 「ありえるんだ。俺はこの現象を知っている。発生したからには根本から砕かないとエンドレスする現象。」
 「エンドレス・・・?」
 「つまり・だ。この場面は一度起こったことじゃねぇ。この惨劇がこの時間起こり、そしてまた明日・・・起こる。」
 「そんな・・・」
 「もう一度言うぜ?俺はこの現象を知っている。『チャイルドマン・ネットワーク』・・」

オーフェンはかぶりを振ると、腕組みしてアーチェに近寄った。
 「どうする?」
 「・・・終わらして・・」
 「・・・あんたには少しばかり酷かもしれねぇぜ?」
 「・・・終わらして。」
オーフェンは軽く微笑むと、アーチェを外に出るように促した。
化物を見るような目で騎士達は後ずさる。もう手は出してこなかった・・・

キースと合流し、トーティス村の入り口に3人は立っていた。
 「・・終わらせるぜ?」
 「ちょっと待って!・・・・この村から抜け出してる人たちがいるの。もちっと待ってあげて?」
 「・・・ああ」

半刻程。
アーチェは急に立ち上がると、一言呟いた。
「もういいよ。」・・・と。
村の入り口にふたりの若者が立っている。
金髪の剣士と青みがかった釣り目の男。
 「・・・んじゃ・・いくぜ?」

オーフェンは右手をかざしてゆっくり。確実にその言葉を紡いだ。

 「我が契約により聖戦よ終われ!!」



・・・・・・・・・・・・・

トーティスの出来事から数日。
オーフェンは非常用の干し肉を炙っていた。
 「さて・・・どっすか。」
 「黒魔術士殿。実は折り入って話しがあります。」
 「・・んだよ。」
 「先日、騒がれている幽霊船の話を知っていますね?」
 「あ・・ああ。トトカンタの沖合いに出るってヤツだろ?」
 「その通りです。実はつい先ほど、その船の調査の張り紙をとってきたのですが・・」
 「捨てろ!今すぐ!ここで!燃やせっ!!」
 「えぇ。しっかり申し込みしておきましたよ。」
 「お〜ま〜え〜は〜・・・」
 「はっはっは♪黒魔術士殿。首を絞めては息ができませんよ♪」
 「一回死んでこい!!!」
オーフェンの罵声がキースを爆砕し、キャンプ地の半径20メートル程を焼け野原にする。

アーチェはその様を見つつ、呟いた。
 「・・・なんだか・・・馬鹿馬鹿しくなってきたわ。」
 「あ?んだよそりゃ・・。」
 「ん?さぁ・・・ねっと!」
ひょいぱくっ。炙り終えた干し肉を拾い上げ口の放り込む。
少し焦げた干し肉は、少し苦かった。

 「あたしもまだまだ若いってことじゃ〜ん?」

 「・・・俺の・・肉・・・おめぇらの分・・・食っただろが・・俺が残し・・・」
 「あれ?もしかして今のオーフェンのだったの?」
 「俺の・・・肉・・・これが最後の・・・」
オーフェンの中で何かがはちきれた。

 「てめぇら全員死んでこいぃいいいい!!!!」
 「なに〜!?わざとじゃないじゃんか!」
オーフェンの罵声がアーチェの言い訳を飲み込み先ほどの爆砕と加えて、半径50メートル、森を燃やし尽くしていた。

まるで乱れのないタキシードを風になびかせ、キースの一言が夜を振るわせた。

 「黒魔術士殿。明日の朝食は水と片栗粉ですね。」
 「ぬがぁあああああ!!!!????」


続く

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