魔術士オーフェン異語編〜我が語りに来たれエルフ〜

〜第2話 時の魔術士〜

慣れもあるのか、彼の残した爆破の傷跡は4時間後には綺麗さっぱりなくなっていた。
しかし魔物の死骸はそういう訳にもいかない。
大体のものは燃え尽きたり塵になったりし消滅しているのだがまだ生きているもの・・・
とどめを刺しそこなった魔物は血を流しながらまだそこにあった。
 「・・・どーにもこーにもどーいうこった?」
オーフェンがあたりのベンチに腰掛けながら呟いた。
隣でくつろいでいるアーチェが返す。
 「さっきも言ったでしょ?ついてきちゃったのよ。」
 「・・・本当なのか?別世界から来たってのは。」
 「十中八苦ね。でもこんな大掛かりな事起き得るかしら?もしかしたら・・・誰かが・・・」
 「誰だよんな意味のねぇことすんのは。」
 「んー・・・心当たりないわねぇ・・・」
 「知らんとこで恨まれてるのかもな。」
ジト目のオーフェンがアーチェを見ている。文句を返そうとした瞬間オーフェンの腹の音で遮られた。
 「・・・コギーの奴まだかなぁ・・・」
 「・・・下心たらたらねぇ・・確かに私もお腹空いた〜」
 「おめぇさっき食っただろーが・・」
 「魔術はお腹減るのよ。」

・・・・・・・・・・

 「とりあえず・・あなたのご希望は叶えたわ。これでいいんでしょ?」
黒い双眸で彼女が言ってきた。
男は軽く頷きかぶりをふる。
 「うむ。とりあえずの第一目的は達成されたという訳だな。いよいよ理論が証拠付けられるってもんだ。」
 「にしても・・あの子も災難ねぇ・・あなたなんか恨みでもあるの?」
 「ん・・?まぁ・・ないと言っちゃ嘘になる。そろそろアイツも限界だろうし・・な。」
 「ふぅん・・まぁいいわ。でも・・これだけ色々干渉しちゃったんだし・・・暴走しなければいいけどね。」
 「暴走?」
男が服についた砂を払い聞き返す。
女は空を見えあげながら呟いた。空はどんよりと雲を帯びている。
 「・・・ネットワークが具現化するかもね・・・」

・・・・・・・・・・

 「いやぁあああああ!!!???」
彼女がひとしきり悲鳴をあげるのを見やりながらオーフェンは貝のパスタをフォークに絡ませた。
一段落ついた宿屋の食堂は至って平和である。
ひとつしかない宿屋の玄関が半開きで軋んだ音を響かせていた。
 「コンスタンス・マギー三等官。この町の荒れようやはり貴様が関わっているんだな?」
冷酷な瞳で彼・・・ダイアン・ブンクトが呟いた。
 「いやぁあああ部長ぅううう!!!?こ・・これはあのそのえと・・」
 「3名死亡、57名重軽傷、民家十二棟半焼三棟全焼、広場にあたるコンクリート全溶。被害総額は貴様が100人100年働いても足
  りぬ程だ。まぁ貴様が100人もいたらむしろ利益がなさそうだが。穴でも掘るか?」
 「うわぁあああ・・・穴に入りたいですぅ・・・」
 「埋めてやろうか?」
オーフェンは一筋の汗を手の甲で拭いながら呟いた。
 「誰を差し引いてもあんたとはいつか決着をつける時がくるかもな・・!」
 「ふ・・私が唯一認めた好敵手よ・・!」
勝手に戦いの中の友情を確かめ合う二人を半眼で長めながらアーチェは考え込んだ。
 (ホントに・・心当たりがない・・・偉大な魔術士アーチェ様を妬んでるとしてもこんな大掛かりなこと・・)
思考を巡らせるが、どうにも巡らない。
 「いいな。一週間以内にこの状態を収拾しろ。さもないと雑用茶くみにまでランクを落とす。」
 「いやぁああああ!!!???」
両手を頭の側面に当て、ブリッジの体制で喚く。彼女なりの絶望の象徴らしい。
 「お師様〜!」
トレーナーに半ズボンをはいた金髪が印象的な少年が駆けて来た。
 「マジク・・・げ。クリーオウ・・・」
 「げって何よ!げって!?・・って誰?」
 「あん?・・・あぁ、こいつは・・・」
 「偉大な魔術士アーチェ様よん♪」
腰に手をやり思いっきり胸を反らす。クリーオウはお辞儀すると紹介を済ませた。
 「オーフェン!この騒ぎはなに?やっぱオーフェンがつるんでるの?」
 「人を悪の根源のように言いやがって・・」
 「こっちは大変ですよ。学校は変な化物にやられちゃって半壊。」
 「おかげで当分休みだけど。」
 「そうか。んじゃあ勝手に遊んどけ。」
再び椅子に座り込み、貝のパスタを口に運んだ。
口に広がるクリームソースをパスタと絡めながら貝の味覚を楽しむ。貝の味が口の中で広がらんとする時・・・
光をたたえながら一点にマナが集結する。アーチェは戦慄した。この感じ!
時空移動の光!!臨戦体制に入るアーチェを横目にオーフェンは椅子を蹴り、クリーオウとマジクの前に立ちはばかった。
 「そんな・・・!」
アーチェが驚愕の色を浮かべると、その影は姿を露にした。
 「誰だ・・てめぇ・・・」
拳を固める。5歩の跳躍で男に殴りかかる自信がオーフェンにはあった。
流れる金髪の奥、鋭い瞳がアーチェを射抜いた。
 「貴様・・エルフ!!」
 「なんで・・!なんで生きてるの!?・・・ダオス!!」

・・・・・・・・・・・

 「我は放つ光の白刃!!」
収縮した光の刃がダオスに突き刺さる。ように見えた。
光と煙幕が消えぬ間にオーフェンは間合いを詰め、固めた拳をつき放った。
 「なに・・!?」
抵抗をまるでかんじない人影に驚き、オーフェンは舌打ちする。半歩右に体を傾け、それをかわした。
ダオスレーザーを放った両の掌を掲げたままダオスは一歩下がり、気を集める。二撃目!!
 「ストーンブラスト!!」
アーチェの石つぶてがダオスに直撃した。
無数の石をマントで払い、ダオスは跳躍した。
 「貴様等人間は・・同じ罪を犯すのか!!」
 「うっさいな〜!!なんで生きてるのかきっちりしゃっきり説明しなさい!!」
 「いずれ分かる・・それまでマナを枯らさぬことだな!」
 「あ・・待ちなさい!!」
それきりダオスは姿を光の中へと消した。

 「なんなんだ・・一体・・・」
ドサッと地面に座り込み、オーフェンは頭を掻いた。
 「我は癒す斜陽の傷痕。」
肩に負った火傷を魔術で癒し、アーチェを見やる。
 「何者なんだ・・・?」
 「敵よ。とんでもない・・・ね。」

・・・・・・・・・・・

 「つまりだ。自分の星を守りたいがために大量虐殺を計ったどーしようもない変人ってことだ。」
 「そ・・そー言ったらミもフタもない気がするけど・・・」
少し考えた風でオーフェンは腕を組んだ。今回の一件にはひたすら共通したものがある。
 「目には目を・・・だ。」

 「オーフェン様ぁぁああ!!」
美しい栗色の髪を跳ねながら細身の少女が宿屋の扉を蹴倒した。
 「げ。」
クリーオウはこの女が苦手だった。
 「よう。いいところに来たな。」
 「い・・いいところ!?オーフェン様がこのわたくしを必要としている!?嗚呼このボニー・マギー!生涯貴方様に付いていきます!」
抱きついてくる彼女を蹴倒し、オーフェンは隣でなぜか無表情な男を見やる。キース・ロイヤル。マギー家の執事だ。
 「もともと・・おめぇの手を借りるのだけは御免だったんだがな・・・」
 「これはこれは黒魔術士殿」
銀髪をオールバックでまとめ、一切のシワのないタキシードを着こなす男は無表情に賛辞を送ってくる。
言える事はただひとつ。変人だ。
 「これの・・力を借りるっての?」
アーチェはひたすらに不安げな表情を浮かべながら男を上から下まで見る。
なんでかきおつけの格好で佇む男に不安を感じながらアーチェは気がついた。
 「って私別にあんたに力を借りる気ないんだけど・・?」
アーチェは訝しげにオーフェンを見やった。
ただ魔術が使えるだけの人間ははっきり言って不用である。
魔術なら自分が使えるし、どうせなら前衛に立つあのクレスや後衛で援護してるあの・・・
アーチェはそこまで考えながら頭をふった。
 (アイツなんかもう知らないんだから!追って来たって帰らないもん!)
 「俺もこれ以上関わりたくないんだがな。どーやらこの一件は匂うんだよ。」
 「匂う?」
 「あぁ。俺が探してる・・・魔女の匂いが・・な。」

 「我は放つ光の白刃!!」
若干抑えられた熱衝撃波が、捕虜として捕まった魔物へと打ち込まれる。
大蜥蜴や、化物蝙蝠とは違い、人間に似た魔物の上である魔族に問いただす。
 「よう。おめぇらは誰に仕えてる?どこから来た?」
 「グ・・・フ・・何度も言わせるな・・・人間ごときに屈すると思うか・・?」
ズン!鉄板を備えたかかとが魔族のみぞおちに決まる。魔族は嘔吐しかけ、呟いた。
 「無駄な・・コトだ・・・」
 「ち。なかなか口を割らねぇ。」
オーフェンは嘆息して後ろを見やる。アーチェとクリーオウが訝しそうに睨んでいる。
 「なんだ?」
 「オーフェン・・あなたこれじゃあどっちが悪役か分かんないわ。」
 「てゆーかこの逆三角形残虐極まりない瞳はどっちかっつーと悪役よね〜。」
 「て・・・てめぇら・・」
 「大体さ〜。ずっと思ってたのよ。オーフェンもうちょっと愛らしく攻撃できない訳?」
 「そーよねぇ?なんてかオーフェンやり方が黒いのよ。」
 「アーチェさんそう思うよね?」
 「アーチェでいいわよん♪クリーオウ・・あなたとは気が合うわね・・・」
 「このシリーズ二人で制覇してみない?」
 「「ふふふふ・・・」」
オーフェンと魔族は嘆息して尋問の続きを始め(始められ)出した。
ようやく折れた魔族が呟いた言葉はこうだ。北の旧街道を越え、そびえる山がある。
かつて天人種族彼女等が発展させた遺跡が残るその地から魔物達は時空転移を果たし、ここに至ったわけである。
魔物達の根源、ダオスという男もまたそこにいるそうだ。
 「北の・・山ね。」
アーチェが口元に手を当て、呟いた。
 「正確には北の街道を沿って東寄りだな。未だに天人の遺産がいくつか残ってるらしいが、無論そう浅い部分には残ってねぇだろう。
  まず<牙の塔>執行部が黙っちゃいねぇ。それでも彼女等の遺産は健在だろうな。
  そん中に時空を越えるほど高度なものがあるという可能性は否めねぇってことだ。」
 「それじゃあ・・・その天人って人たちの遺産がダオスや魔物を引き寄せたっての?」
 「いや・・・考えにくいな。」
 「考えにくい?じゃあなんでよ・・・」
 「そっからだ。そっからが多分あの魔女が絡んでやがる。・・・詳しいコトは分かんねぇが。」
 「魔女ってのは?」
 「俺の・・・姉だよ。」

・・・・・・・・・・・・・・

 「言ってらっしゃいませ。黒魔術士様。」
白いハンカチで大げさに涙を拭うキースを半眼で見やりながらオーフェンはザックを担ぎなおした。
 「おめぇも来んだよ。」
 「はて。何故です?」
いたって乾いた細身の双眸でオーフェンを見やりながらキースは呟く。
 「変人には変人にを・だ。俺も本意じゃねぇが・・・」
オーフェンは一度嘆息すると、アーチェを見やった。
 「前々から思ってたんだが、この奇想天外摩訶不思変人野郎をはぐれ旅編に持ち込めばどれだけ楽かって思ってたんだよな。」
 「?」
訝しそうなアーチェを放ったままオーフェンはキースを引きずりトトカンタを旅立った。
 「お師様〜〜。行ってらっしゃい〜。」
 「あの野郎。久々に楽な役回りだからってにこにこしやがって。」
 「んぐぅうう!!んぐぐぐぅうぅうう!!!!」
 (・・・まぁクリーオウのお守りは決して楽じゃねぇか・・)
呟くと、魔術士3人組は旅立った。
とことん・・限りなく・・言えることはただひとつ。
関与する人間は皆・・・



変人だった。


続く

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