魔術士オーフェン異語編〜我が語りに来たれエルフ〜

〜プロローグ〜

台所から香ばしいトーストの香りと昨夜のスープを煮込む匂いが鼻腔を突付く。
野菜のエキスがたっぷり染み出た父特製のスープを思い出しながら少年はベッドから出ようとする。
・・・が異変に気づくのはすぐ後だった。
父がまだ寝こけている。なら・・・今台所に立っているのは?
思いもよらない悪寒が背筋を引き裂き、声となり悪寒が発散される。
 「マママ・・ママ!!何してるの!!」
 「あら?おはよう♪久っしぶりこの私が腕によりをかけて可愛い息子と愛する夫に朝ご飯を作ってあげてるんじゃない?なによその顔」
 「絶対なんでもなにがあっても世界が滅びようとも阻止するぞ!?お父さぁ〜〜ん!!」
悲鳴を挙げながら少年は父を呼ぶ。
寝ぼけまなこを擦りながら2階からやって来る父が細い両目を見開くまで時間は要らない。
 「ば・・何してるんだ!?飯は俺が作るって言ってんだろが!!おまえは寝てろ;;;」
 「何よ!私のご飯が食べられないわけ!?ねぇあんたはどうなの!?」
少年に振られて少年は焦った。そういうわけじゃないけど・・・
 「きっぱりその通りだ!断じて俺は食わないぞ!?この××料理人!!」
 「あ〜〜!!言ったわね!?言っちゃったのね!?ふん!もーいいもん!こんな家でてってやる!!」
 「行け行け!朝飯作るくらいなら言っちまえ!いっそ別世界にでもなぁ!!」
・・・今日も僕の家は平和だ。
ただ、母が拗ねてどこかに行く時間が早いだけだった・・・・

〜第1話 変な魔術士〜

今日も今日とてトトカンタ市は平和である。
時たま起こる破壊活動も慣れてみれば習慣のようなものだ。・・・は今日は1度も起きていない。
こんな日彼は3日は食べていないのだった。
 「うぅ・・・そろそろ本気で死ぬぞ・・・?」
黒い双眸は逆三角形に吊り上っている。・・はずなのだが今は半眼でただ空腹に耐えている。
黒目黒髪黒づくめ。ゆいいつ一色胸元に銀を飾らしている以外は典型的な「魔術士スタイル」だ。
胸元の剣に絡みついた一本足のドラゴンの紋章は大陸魔術師本部<牙の塔>で学んだ者の証である。
・・・は空腹の前には無力だ。
 「お師様いい加減お客さんの食べ終わったお皿舐めるのやめてもらえませんか?片付けできないし・・・」
 「うぅ・・・師弟愛とはこんなにもはかないものだったのか・・?」
うめく師を見やりながらマジクはコップを磨いていた。
考えてみれば師、オーフェンとクリーオウ、そしてマジクで旅をし、帰ってきてからはや3週間となる。
帰ってきたというのはさして旅が終わった・・というわけではない。例の福たぬきも逃亡したままだ。
3週間前大陸を渡る船に乗ったはずが、何かの手違いでトトカンタに逆戻りしてしまったのだ。
 「えっと・・・僕そろそろ学校に行ってきますね?お師様その辺のもん拾い食いしないでくださいね。」
 「その辺になにも落ちてないからそれさえも出来ん・・・」
久しぶりの学校にも馴染んだのか、マジクは嬉々としてオーフェンが寄生している「バグアップ・イン」の戸を開けていった。
 「オーーフェェエン!!!」
バタン!マジクを入れ違いにまた人影が入ってくる。
スーツを着た女性・・・その顔つきのせいか3歳は若く見られてしまいそうな顔を大きくしかめ、オーフェンの耳元で叫んでいる。
 「オーフェン!暫くの間いなかったんだからきっと絶対今日こそは手伝って頂戴ね!でないと私・・・!」
 「・・でないと私?」
 「ご飯一食抜いちゃうわ!!」
 「俺は3日抜いとるわぁああ!!!」
ごめきっ!鈍い音を響かせながら彼女・・・オーフェン曰く無能警官コンスタンス・マギーをどつき倒した。
 「痛いわねっ!3日抜いてるだけでピリピリしないでちょうだい!カルシウムが足りないわよ!?」
 「全体的に栄養素が足りんわ!働くからには金払えっ!飯食わせろっ!出来ないなら顔見せるな!!それだけで腹減るっ!!」
 「ひ・・ひどい!それにしてもオーフェン攻撃力が落ちたわね。誰かが手を振る前に帰ってこれるわよ?」
 「うるせぇ!!それじゃあ魔術でこんがりさっぱり燃やし尽くしてやろうか!?あん!!?」
 「オーフェン目が据わってるわよ!?ちょっ・・・やめな」
 「我は放つ!!」
手をコギーの目前に構え、構成を編む。
展開された構成はオーフェンの声と共に実体化する!!・・・が。
ドガシャアアアアアン!!!!
 「あだっ!」
騒音の後、ベチャっと妙な音がする。人。人が天井を突き破って落ちてきた。
トトカンタは今日も至って平和である。ありふれた町並み、行き交う人々。そして新たな変人の登場。
オーフェンは空腹と日常に嘆息するしかなかった。

・・・・・・・・・・・・

色で現すなら「桃色」だった。淡い桃でも、濃いショッキングピンクでもない。ただの桃色。
桃色の頭髪は上頭部でポニーテールのようにくくっている。・・・は先ほどの衝撃で八方に跳ねている。
幻想的な真紅の瞳。
 (?異人か?)
オーフェンは訝しそうな表情で見やるが彼女はただ食事に夢中だった。
 「あなたも大変ねー。聞いた話によると酷い家族みたいね。」
コギーが何やら「夫性悪」「息子優柔不断」など書いてあるメモを眺めながらうめいている。
 「そーなのよ!酷いと思わない?せっかく私が愛情込めて愛する夫と可愛い息子にご飯作ってあげようと思ったのに!・・・そりゃたま
  〜に失敗したり変な色になったり泡だったり半固体になったりもするけど・・・ひどいわよねっ!」
熱々のクリームシチューと一切れのパンを頬張りながら彼女はひとしきりグチを零すのをうんうんと聞きながらコギーは頷いている。
 「ってゆーかなんなんだ?今更人が天井から降ってこようがどう見ても10代後半の女が夫だの10歳弱の子持ちだのほざくのは慣れた
  もんだが俺が納得いかないのはなに食ってんだってことだ。」
 「いーじゃない私のおごりなんだから。」
 「俺にも食わせろっ!いくら無能だからって警官がひいきしていーのか!?人権侵害だぞ!?」
 「なんか違う気もするけど・・・いーじゃない!聞いてると不憫じゃない!同じ女としては放っておけないわ!」
 「う〜ありがとねぇなんだかあなたとは気が合う気がするわ」
 「・・・てゆーかあんた名前はなんなんだ。いや今更気になるわけでもねぇけどよ・・・」
 「私?私はねぇ。」
んぐっ!?と喉をつまらせ奇声を挙げた彼女を見やりながらオーフェンの直感は警告音を発していた。
また・・また新たな変人が自らに関わりをもとうとしていることを。先ほどの何気ない質問が命取りであったことを。
 「・・・ぷはぁ!・・・っと。私はアーチェ。アーチェ・クラインよ♪」

・・・・・・・・・・・・

 「おい・・おまえ行けよ。」
 「なんでだよ・・おまえが先だろ?」
 「どっちでもいいから早くしようぜ。あいつ等来るって!」
 「じゃあおまえがすりゃいーだろ?てゆーかなんであの人に頼むんだ?」
 「馬鹿!あーゆうのはあの人の管轄だろーが!」
 「とにかく入ろうぜ。ホラ早く。」
 「なんでだよ・・おまえが先だろ?」
 「どっちでもいいから早くしようぜ。あいつ等が来るって!」
 「じゃあおまえがすりゃいーだろ?てゆーか」
 「おい何してんだ?」
宿屋兼酒場の「バグアップ・イン」の入り口前で何やら密談をしている男3人を訝しそうに眺めながら窓際からオーフェンは話し掛けた。
 「おぉおおおぉぉお!?あんたいつのまに!!?」
 「お・・おのれ!妖しいぞ!!」
 「いや・・・おまえ達の方があからさまに怪しいと思うんだが・・」
 「いやそんなことより!大変です!」
 「いやそんなことって流されても・・・」
今更うめいても遅いのだがとりあえずつっこまずにいられない。すっかりトトカンタ色に染まってしまったようだ。
 「ばばば・・化け物が街を徘徊してるんです!」
 「・・・・はぁ?」
 「今日は来客者が多彩ね。今更化物が出ようが珍しくもないんじゃない?」
コギーがひょいと窓に身を乗り出し呟く。
 「・・・アレを見てもか?」
蒼白な顔を浮かべながらオーフェンは前方を指差した。
化物化物化物。翼を持った者、双頭の蛇、巨大な獣。選り取りみどり・・・が街中の人を襲っていた。
どーやらここからは「魔術士オーフェンはぐれ旅」になりそうだとオーフェンは直感していた。吉なんだか不幸なんだか。

 「あーー!!ついて来たの!?」
窓から乗り出す形で彼女が頭の上喚いている。窓枠に押しつぶされた形でオーフェンは嘆息するしかない。
頭上で暴れる彼女を端に避けながら説明を聞く。
 「話せば長くなるんだけど・・・えとね。ばかチェスターに嫌気が刺して世界でも一周して来ますか!?みたいなノリで飛び出したのは
  いいものの、海底に沈んだはずのトールが浮上してきちゃってさ?そりゃぁもう私の冒険心に火をつけちゃったってワケよ。んで中に
  入ってみたら見たこともないモンスターでいっぱい!どうにか追い払いながら進んでったら時空転移装置がまだ生きててさ〜やっぱこ
  こで帰ったらアーチェ様じゃない!ってことで入ってみたらこの時代に来ちゃったってわけよ。んでここ何時代?アセリア暦何年?見
  たところ見たことない町なんだけど?」
 「・・・回答どころか質問までしてやがる・・・」
 「ただじゃ起きない性格ねぇ」
ふと考えたようにオーフェンは口許に手を当てる。アセリア?
 「なんだアセリアって?」
 「へ?アセリアはアセリアじゃない。この世界の・・・」
言いかけた瞬間!ガッシャーーーン!!!
後ろの窓から巨大な蜥蜴のような生物が入ってきている。
ひとしきり悲鳴を挙げたコギーを端に避け、オーフェンは右手を掲げ意識を集中させる。
編み上げた構成を展開させ、発生とともに世に実現する!!
 「我は放つ光の白刃!!」
膨れ上がる熱衝撃波がいつも通り宿と一緒に大蜥蜴を焼き払い、一点に収束した。
 「・・・マナ魔術じゃない?」
 「何分かんないこと言ってんだ!外に出るぞっ!!」
転がるように扉を蹴開け、外へと身を踊らす。
既にトトカンタは魔物騒ぎでごった返している。
 「オォオオフェン!!こーいうのはあんたの管轄でしょぉ!?どーにかしてちょうだい!!」
 「どっちかってっとキースの管轄のような気もするが・・・」
 「来るわよ!ボサっとしない!」
迫り来る大鷲を見上げ、アーチェが叫ぶ。マナを収束し、箒へと練りこむ。
生命の息吹を吹きかけられた箒がまるで生きているかのようにアーチェを乗せ、空へと飛翔した。
 「な・・何!?構成が見えなかったぞ!?」
 「きゃあああ!?オーフェン来たわよっ!?」
 「ちっ・・我は呼ぶ・・・・」
 「任せてっ!!」
上空から・・・大鷲の数メートル上から見下ろした形でアーチェが叫ぶ。
掲げた右手には紅い閃光が留まり、刹那放たれた!!
 「ファイアボール!!」
 「ギシャアアアア!!!?」
打ち落とされた大鷲は悶絶し、オーフェンの目前に落下した。
背中が大きく焼け爛れている。
 「あ・・・あんたは・・・?」
 「ようやく見当がついたわ。この世界一般的に魔術が使用できるみたいね。それは編み上げた構成を音声とともに放つもの。違う?」
 「あ・・ああ。だがあんたが使う魔術・・構成がまるで見当たらない・・・あんた何者なんだ?」
 「エルフ・・って言ったら分かる?」
 「エルフ・・だと?あのドラゴンに並ぶほどの魔術力を持ってながらも森深きから姿を見せない・・・そうか。あれは吸収魔術・・」
 「何勝手に納得してるのよぉ・・オーフェン!今の状況を打破してから話あってよ!そしたらご飯くらいはおごったげるからぁ」
泣きつくコギーを訝しげに見やりながらオーフェンは嘆息する。
確かにこの状況を解決させるのが先決ではある。
 「・・にしてもなんでおまえが泣くんだ?」
 「この私の管轄地区で騒動が起きたらあの鬼部長が・・・じゃなくて市民の平和のために決まってるでしょ!?」
 「なるほどよく分かった」
半眼で呟きながらオーフェンは再び構成を編んだ。
 「我は踊る天の楼閣!」
一瞬消えた体が近くの屋根へと転移する。
 「へぇ。やるわね。半分任せてもいいかしら?」
 「こいつら収拾したら飯にありつける!!行くぜっ!!」
屋根伝いに跳躍し、トトカンタを駆け抜ける。途中遅いくる怪鳥を魔術で吹き飛ばし見えてきた広場にはひときわ大きな獣が佇んでいた。
 「なんだこいつ・・・?」
屋根上でブレーキをかけ、とどまる。
 「これは・・骨が折れそうだわ。うぅん。もとい腕が鳴るわ♪」
 「ち・・あんたも相当戦い慣れてやがるな。」
 「そりゃあこれが日常茶飯事だったんだもん。」
 「・・・なんつー日常だよ・・」
半眼で呟き、佇む獣へと目をやる。さっきまで居た巨体がそこにはいない。
 「どこ行きやがった!?」
 「オーフェン後ろっ!!」
雄たけびをあげ、オーフェンを引き裂こうとする襲撃を身を捩りかわし、獣のわき腹に拳を突き込む。
一喝したのち、拳に意識を集中させ獣のわき腹辺りで構成を編み展開する!!
 「我は呼ぶ破裂の姉妹!!」
膨れ上がる爆発に身を焦がし、獣が昏倒する。
硝煙を上げる獣の肉体を見下ろしながらオーフェンは手を擦った。先ほどの爆発で焼け爛れ、骨が砕けている。
 「うっわ痛そー・・」
 「・・・我は癒す斜陽の傷痕・・・・」
みるみると塞がっていく傷口をみやりながらアーチェは嘆息する。
 「ほえ・・便利ねぇ最近の人間が使う魔術は・・法術いらずね。」
 「あんたえらい呑気だな。ホラ・・来るぜ?第二陣。」
広場に交わる大通りから先ほどの獣級の大きさを誇る魔物が数十体姿を現した。
 「・・・あれは流石に骨が折れそうだな・・」
 「お?んじゃあ私の番ね♪」
 「な・・おい!」
意気揚揚と箒を飛ばし、魔物の群生の目前へと飛び降りる。
魔物達を一望すると、手を掲げ、魔術の詠唱に入った。
凛とした詠唱を空気に響かせ、マナと結合させる。
やがてそれは実現する!!
 「天光満つるところ我は在り!黄泉の門ひらくところ汝在り!・・・出でよ冥府の熱・・・」
 「イラプション!!!」
コンクリートの広場から沸き起こるはずのない溶岩が魔物達を飲み込み、辺りに広がる。
溶岩から放たれた炎弾が宙を舞い、落下すると器用にも人を避け、魔物へと直撃する!!
やがてトトカンタは燃えつきた魔物で溢れ返った・・・・


続く

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送