〜眠れない。〜
もうすぐ・・・もうすぐだ。
地下深くだったか・・・
もしくは天をも突き抜けるほどの高所だったか・・・
暫く・・なんてものじゃない。
気の遠くなるような間、日の光は浴びた覚えはなかった。
死よりも苦しい環境。
いっそ死ぬほうが楽なのかもしれない。
奴は希望を糧に生きている。
我々の正の感情を喰い、負の感情を吐き出す。
気が狂いそうだった。
何度も死にたくなった。
・・・死ねない。
私は死ねない。
あの子に・・・親友の息子に会うまでは。
この時が来た。・・・・来たんだ。
この日・・・ずっと前から伺っていたチャンス。
今日しかない。今日しかないんだ!
今日・・・アズカバンを抜け出す。
会うんだ!あの子に・・・
会うんだ!ハリーポッターに・・・
あの子は怖がるだろうか?
あの子は私の話を信じてくれるだろうか?
あの子は・・・
あの子を見た。ひどく質素な格好をしている。
まだ会えない。会うことは出来ない。
機を伺うんだ。今はまだ・・・早い。
・・・・・・・・・・・
「にゃ〜〜〜。」
シリウス・ブラックの足に子猫がすりようにやってくる。
とりあえず伸び放題の髪を、短く整え服装を正したものの・・・
やはり迷っていた。
「・・・お母さんのところにおゆき。」
「んにゃぁ・・・」
「・・・一人なのか?」
子猫は何も言わずぐるぐる喉を鳴らしている。
・・・呑気なものだな。
シリウスはこれまでの疲労がいっきに溢れ出たのか、その場に崩れこんでしまった。
膝が・・動かない。
手の痙攣も止まらない。
ただ・・・意識だけはハリーの元へ。
「おいで。」
手を振りながら子猫を呼び寄せる。
思ったよりすんなり、子猫が手の中へともぐりこんでくる。
そっと・・・抱き寄せると子猫はやはり喉を鳴らしながら眠ってしまう。
眠ろうか・・・。
シリウス・ブラックはもういない。
ハリーも私のことは知らない。
そういうことにして・・・もう眠ろうか。
否。眠れない。私はあの子を養うと決めたんだ。
・・・ジェームズに・・リリーに・・・親友に代わって。
シリウス・ブラックは手の中で眠る子猫を見やり、軽く嘆息した。
妙に・・満月の映える夜だった。
・・もうすぐハリーの誕生日・・・か。
プレゼント・・・なにがいいだろう。
・・・明日あたり・・箒の店でも覗いてみよう。
〜END〜
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