夏の・・・

 



 「あぢぃ〜・・・どーにかなんないワケ?この蒸しよう・・・」
アーチェ・クラインはテーブルに突っ伏したまま、だらしなく舌を出しつつうめいた。
 「うるせぇな。夏は暑ぃもんだ。」
 「だぁってさぁ・・・・こー暑かったらあたし溶けちゃうよ〜・・・」
 「あ”〜!暑いって言うな!余計に暑く感じる!!」
 「あづいあづいあづいあづいあづいあづい〜〜〜!!!!」


夏も中ごろに差し掛かり、一層暑さを引き立てる日々が続いていた。
一行はベネツィアの宿屋で休息を取っているところであった。
 「おいおい。だらしがないぞ。」
 「クラースさん・・・暑くないんですか・・・」
クレスが半眼でうめき、凛としたクラースを見つめる。
 「心頭滅却すれば火もまた涼し。と言ってな。気を落ち着かせることによって・・・」
 「うあ!お年寄りがいる〜!」
 「・・・・イフリート呼んでやろうか?」
 「ビッグバン放ってあげようか♪」
 「・・・やめてください・・・」


 「・・皆さん気が滅入っているようですね。」
 「あ・すずちゃん。・・・いつもその忍び装束だけど暑くないの?」
 「はい。忍者ですから。」
 「・・・そーいう問題なの?」
 「いーですねぇ・・私も忍者になってみようかしら・・」
 「ミントが壊れた!?」
目が虚空に漂うミントにたじろぎながら、クレスは呟く。
 「・・・あれ?そーいえばすずちゃん昨日までどこ行ってたの?」
 「里に戻っておりました。ただいま帰りましたのです。」
 「里って・・・忍者の里?」
 「はい。里はいいですよ。竹林が暑さを吸収し、納涼な風が吹き込みます。」
アーチェが反応する。
 「そーいえば明日からお祭りが開かれるのです。」
 「へ〜。楽しそうだね。」
アーチェがこちらを向く。
 「それは盛大に行われますよ。あと食べ物とかも美味しいのです。」
アーチェの目が煌いた。


アーチェが決断した。すなわち。一行は有無言わさず祭りに行く事になったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・

涼しい風が森の奥から吹き込み、ところどころに出来ている木陰が人々を暑さから守ってくれる。
村を流れる小さな小川、川を中心に戯れる里の子ら。
里中、夜から始まる祭りの準備ににわか活気つき、ちらほら店の用意も出来上がっていた。
 「へぇ・・・すずちゃん。これはなんの祭りなの?」
 「はい。忍びの里では年間色々なお祭りごとが行われるのです。これは夏の来訪を喜ぶ「縁夏祭り」ですね。」
 「喜ぶ?あたし夏は嫌いだわ〜。しんどくてやんなっちゃう。」
 「・・・おめぇ冬は寒くてやんなっちゃうって言ってただろ・・・」
 「それにしても涼しいですねぇ♪来てよかったです。」
 「・・・来る途中で船が魔物に襲われたり、属性の考慮でやむなくイフリート乱舞をしたりと色々死にかけたがな・・・」
口々に話しながら6人は里の中央に赴く。
中央には、赤と白で彩られた土台に、見たことのないモノが設置されていた。
 「・・・アレは?」
 「和太鼓と言って楽器のひとつです。あれを叩くことによって夏の来訪を感謝するのです。」
和太鼓の周囲には、里の若い男達がなにやら打ち合わせをしながら話をしている。
上目にそれを傍観しつつ、すずは言った。
 「祭りは夜からなのです。屋敷で暇を持て余せててください。」




ドォォォォォン!!
一際大きな物音に、クレスは飛び上がった。
 「な・・なんだ!?敵襲か!?」
 
 「始まったのです。」
隣の部屋から顔を出したすずが呟いた。
 「あれは祭りの開始の太鼓打ちです。今皆さんに浴衣を準備していますので先に参っていてください。」
 「・・・ユカタ・・?」
 「里の芸産品のひとつです。」
そう言い残すとすずはまた襖の向こうに消えてしまう。
取り残された3人は腑に落ちない表情で向き合い呟いた。

 「・・・先に行ってよう。」



里中、様々な音楽が流れ、歌が聞こえ、声がする。
昼間以上の活気を見せる里に圧倒されながらクレスは感嘆の声を漏らした。
 「うわ〜・・・ユークリッドのお祭りと違うかんじだね。」
 「あぁ。ありゃどっちかってっとバザー的なかんじだしな。」
 「ふむ・・・。なかなか趣があるようだな。」
 「なんだか・・・最近クラースさん突然風流を感じたり年寄りっぽいですよ?」
 「な・・何を言うか!私はだな・・・!」

 「じゃ〜〜〜ん☆」
甲高い声がクレスの頭上を越え、クラースの横を回り、チェスターの耳に直撃する。
 「・・・っせぇなぁ!大声だす・・・・な・・・・」
 「ア・・アーチェ?なに?その服・・」
 「なにって浴衣じゃん♪ゆ・か・た♪あたし的には動きづらくてイマイチなんだけどね〜。」
 「アーチェさんよく似合ってますよ。」
 「ミ・・ミント!?」
 「・・・今あからさまに赤面したぞ・・クレスの奴・・・」
 「うむ。そーいえば私も法衣以外のミントはほぼ始めてみる。・・・なんとも新鮮だな。」
 「・・・年寄りの次はおっさんか?」
 「貴様・・・熱してやろうか?」
 「忍びの里、芸産品「浴衣」です。祭りには欠かせないのです。」
髪を結ったすずが呟くと、おもむろに指を指した。

 「さぁ始まります。ちゃんと見ててくださいね。」

一瞬、里の時が止まった気がした。

人々は息を飲み、木々はざわめく。

刹那。森の遥か奥方でなにかが煌いたと思うと・・・


・・・・・・ドォオオオオオオン!!!!!

轟音が地面を揺るがした。
チェスターは後ろのめりになり、クレスは目をぱちくりさせている。
人々はその瞬間を楽しむように、笑い、歌い、酒を飲んでいる。
 「夏の来訪を知らせる「花火」です。楽しんでくださいね。」

爆音の裏側、夜空を彩り豊かな閃光が煌き、里の夜は明るく演出される。
クレスは嘆息しながらそれを見上げた。

 「た〜〜まや〜〜♪」
アーチェが口に手を添えながら叫ぶ。
 「・・・なに言ってんだ?てめぇ・・」
 「ばか!あんたも言うの!た〜〜まや〜〜♪」
 「・・・?」




旅の一息。

時空を駆ける剣士達は、つかの間の休息を楽しんでいた。
これから起こる激戦。
誰もが想像しなかったわけじゃない。
したくないわけでもない。
ただ・・・6人は現在(いま)を楽しめれば・・・


それでいいと思った。


空は、これからの戦いを暗示させるのか。
赤く。激しく。・・・そして優しく。

夏の夜を照らし続けたのだった。




END

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送