〜黒と紅と金色と。〜



ホグワーツは楽しい。
人間・・じゃなかった。マグルの学校じゃロクな思い出もないんだけどホグワーツは楽しい。
僕はここに来て良かったと思う。ロンの奴やハーマイオニーだっている。
クィディッチだって思う存分できる。僕は今、最高に楽しい。
それが・・・・どういうことだい?
僕は今日、少し楽しくない。
ロンとハーマイオニーのお陰で楽しいホグワーツも。
今日はロンとハーマイオニーのせいで少し楽しくなかった。

・・・・・・・・

朝焼けの眩しさに目を細め、少年はベランダで冷たい空気を肺へと送った。
もうすぐ春なのに少し肌寒さを覚え、パジャマの上に羽織った黒いローブをぎゅっと締める。
黒い頭髪にめがね。人の良さそうな顔を紅く染め、息は白く虚空を漂った。
額の雷型の傷を見て、知らない人は誰もいない。
ハリー・ポッターは空を見つめながら呟いた。
 「なんだかな〜・・・」
朝靄にかき消された言葉に嘆息しながらハリーは眠れない夜を思い出した。
それもこれも親友の二人、ロンとハーマイオニーのせいだ。
ハリーは二度目の嘆息を名残冬へと染み込ませた。

 
 「なぁ。ハリー。クィディッチと言ったらブレイブスターズだよな?」
唐突に投げかけられた質問にハリーは疑問符を浮かべる。
 「なんだよ!知らねぇのか!?去年あの華麗なチームプレー、名に恥じぬ神業で三連続優勝を成し遂げたプロクィディッチチームさ!」
ロンはクィディッチのことになったら止まらない。
僕もクィディッチは好きだけど、ここまでは・・・
 「あ〜ら。何言ってるの?今年の優勝はレッドスクリーマーズが優勝に決まってるわ!」
 「何!?まだ言うのかハーマイオニー!」
流れる金髪の少女。優等生ハーマイオニーを見上げながらハリーは傍観する。
 「だってそうじゃない!今年から入った新人シーカー、ルイン様の名乗箒!惚れ惚れするわ・・」
ルイン・ペーター。連敗続きのレッドスクリーマーズの救世主と、当時うたわれた新人シーカーである。
余談だが、彼は今年のシーズンで姿を消すことになる。
腹を下したのにも関わらず、乗箒し、見事に敗退、見事にトラウマとなってしまったことにハーマイオニーは2週間後嘆くだろう。
 「これだけは譲れないね!あんなオンボロチームどこがいいんだか!」
 「何よ!少〜しばかり売れてる新米チームがよく言うわ!」
 「なにさ!」
 「なによ!!」
はぁ。ハリーは深い深い嘆息を残した。

 「そういう訳さ。ハグリッド・・・」
 「あぁ〜そりゃハリー。お互いの言い分はごもっともってぇ奴だ。」
ハーブティーをすすりながら、その巨体が大きく頷いた。
上下に揺れる髭。軋む机。椅子は今にも壊れんばかりの悲鳴を上げている。
 「どういうこと?」
 「いいか?ひいきにしてるモンってのは誰にだってある。ハリー、お前さんにもあるだろ?」 
 「ひいき・・・?う〜ん・・よく分かんないや。」
 「まぁ。そういうモンさ。」
そう言うと、ハグリッドはケーキを頬張りながら奥の部屋へと姿を隠す。
 「ハグリッド?」
 「ちょっと待ってろ、ハリー。・・・ホレ!どうだ?」
 「どうだって・・・」
嬉しそうな顔に押されながらも、ハグリッドの手の中の小さな箱を覗き込む。
なんの変哲のない紙の箱。蓋がされている。
 「なにが入ってるの?」
 「見とれ。ハリー・・ほうら。見えるか?スノウピクシーじゃ。」
小さく開け広げた紙の箱の中には小さな、白い精霊がえさを食べていた。
 「これは・・?」
 「珍しいだろ?あるルートでたまたま手に入ったのさ。綺麗だろ?おっと。汚い手で触んないでおくれ!」
 「・・・このあいだみたいに暴れたりしないよね?」
 「ぬ・・・このスノウピクシーはな!大人しくて優しい性格なんじゃ!繊細なんだよ・・・」
ほふぅと吐息をつくハグリットの幸せそうな横顔を見ながらハリーは嘆息した。
 (ロンとハーマイオニーのこと忘れてるよ・・・あれ?)
お茶のおかわりにいつのまにか席を立ったハグリッド。机にいるのは自分と、小さなスノウピクシーだけ。
ちょっと待て?変だぞ?精霊の姿が見当たらない。まさか・・・!
 「ハグリッド!精霊が逃げた!!!」

数瞬後、ハグリッドが血相を変えて小屋を飛び出していった。

・・・・・・・・・・・・

 「やぁハリー。お茶でもどうだい?」
教科書を小脇に呑気な男が廊下を歩いている。
首元で結んだ金髪は、少し貧乏臭さを表してはいるが綺麗ではある。
屈託のない年齢に似つかわない笑顔に歩を留めながらハリーはブレーキをかけた。
 「はぁ・・はぁ・・・ルーピン先生。」
闇に対する防衛法教師ルーピンはもう一度「やぁ」と言うとハリーの慌てぶりに表情を歪めた。
 「なにをそんなに急いでるんだい?」
 「えっと・・・こっちに精霊が来ませんでした?」
 「精霊?」
 「はい・・ハグリッドの精霊が逃げちゃって・・・」
 「お〜いハリー!!」
向こうから走ってくる少年。赤髪を見ただけで判別がつく。
 「ロン。遊んでる場合じゃないんだ。今忙しくて・・」
 「まぁいいかあハリーこいよ!練球場で珍しいモン見たんだって!チョロチョロ飛んでて綺麗な・・」
 「それだ!」
ハリーは叫ぶとロンの手を引いて走っていく。
残されたルーピンはきょとんとした顔で頬を掻いた。
 「・・・あ。やぁ。お茶でもどうだい?」
呑気な仕草でやってきた生徒を引きとめたルーピンはどうやら今日のお茶の相手を見つけたようだった。

・・・・・・・・・・・・

 「いたぞ!ハリー!!あっちだ!!!」
ロンがわめきながら上空を指差した。
春の季節になると活気づく練球場の真中をつっきる形で小さな影の下へと走り込む。
 「あれは・・スノウピクシー!!ハグリッドのだ!」
 「なんだまたハグリッド関係か?嫌だなぁ。なんだか凶暴な生物に見えてきた・・・」
 「悠長なコト言ってないで捕まえるよ!スネイプに見つかったら大目玉だ!」
 「ちょっと待てよハリー。どうして大目玉なんだ?あれはハグリッドのなんだろ?」
 「気がつかないのかい?ロン。シーズンオフの練球場は立ち入り禁止だ。」
 「あ・・気づかなかった!」
 「ここまでこれば一緒だろ?僕が箒で捕まえにいくからロンは・・・」
 「ハリー。俺も行くぜ!」
腕まくりしながら箒置きへとせかすロン。
 「ちょっと待って!僕は大丈夫だけど・・ロン大丈夫なの?」
 「なぁに任せろって♪一人より二人。だろ?」
単に練球場で箒に乗りたいだけなんでは・・とハリーは思いつつ、箒置き場へと歩を進めた。

 「あら?あれは・・・?」
教科書を胸元で持ちながらハーマイオニーは何気なしに窓から外を覗き込む。
少し空が曇っている。雨雲を遮る影に気がつくと、ハーマイオニーは蒼白になった。
 「バ・・バカ!なにしてるのよ!!」
気がついたら。気がついたら練球場へと急ぐ自分がいた。

・・・・・・・・・・・・

 「ロン!右だっ!」
 「うわっ!うわわわわぁ・・・!!!??」
不安定な操縦のロンに意識を配りつつ、ハリーはピクシーを追い込んでいた。
上下無用に飛翔する精霊はまるで・・まるでスニッチを追うような感覚を感じさせる。
 「うわわわわわ!!ハリー危ない!!」
ギュオオン!!すぐ右を掠めながら上下逆さのロンが叫んだ。
 「ロン!!」
90度旋回、右斜め角度45度、左上上昇三回転捻り。続けざまに3つの円を描きつつ、直角降下を始めるロンにウルトラCを贈りつつ、
ハリーはロンの保護へと入る。
縦横無尽に飛び回るそれは・・スニッチ以上にランダムな動きをしていた。
ハリーは本日いくつめか分からない嘆息を吐き、ロンの手を握った。
 「た・・助かったよハリー。」
 「いいかい?できるだけピクシーを追い詰めつつ、一瞬放すから。その瞬間に捕まえる!いいね?」
 「よ・・よせハリー!放さないでくれ!」
 「ロン!駄目!下を見るな!!」
 「も・・もう駄目だハリー!!!」
ロンが悲鳴をあげた刹那!
 「ハリー!ロン!!なにしてるの!!」
最悪だ・・・ハーマイオニーが下で絶叫している。
今朝の状況を思ったらロンの奴・・・
 「ハリー!ハーマイオニーだ!!アイツ絶対俺達のコト先生にチクるぞ!」
膝をガクガク奮わせつつロンが猛った。
 「黙れハーマイオニー!先生に言ったらただじゃおかないぞ!!」
 「何言ってるのよ!危ないから早く降りてきなさい!」
 「何ぃい!?危なくなんかないぞ!ホラ!これだけ自在に・・・」
バ・・バカ!!舌打ちする間もなく、ロンは急降下を始めていた。
急降下。いや。これは・・・
自由落下。
 「う・・うわぁあああああ!!!!????」
 「きゃあああああ!!!??」
 「ローーーン!!!!ってぐぇえ!!??」
 「ハリー!死ぬ時は一緒だぞ!!」
ハリーのローブ・・しかもフードを右手にしかと握り締め、ロンは宙吊りになっている。
 「ロ・・くる・・・し・・」
 「ハ・・ハリー頑張れ!落ちるな!負けるなハリー!!」
無責任な声援を送るロンを凝視しつつハリーは意識を集中させた。
収束された魔力を介して浮遊する箒は、精神に十二分に影響されるのだ。
少しでも落ちると思えば・・・落ちる。
 「ロン・・・だめ・・だ・・・」
 「ハ・・ハリー諦めるな!!!」
ふっ。何もかんじなかった。
ただ途切れた魔力が霧散し、ハリーとロンは重力に身を任せるしかなかった。
 「「うわああああああ!!!???」」

タンッ!駆ける。なぜこんな行動にでたかは分からない。ハーマイオニーは分からなかった。
できるはずがない。今の自分の力では。
しかし・・・詠唱を終えたハーマイオニーは魔力を展開させ、構成を編みあげた。
 「ミルデモール!体よ浮け!!」
シュワァン!!!
もう駄目だ・・・!!ハリーが叫ぶと。
ハリーとロンの周囲に魔法陣が展開した。
地面から6メートルほどで宙に固定された体を訝しげに見ながらロンは安堵した。
 「たす・・・かった?」
 「嘘・・・・?」
一番驚いているのはハーマイオニーだった。まさか自分が、自分がこんなことができるなんで。
 「う・・うわぁああ!!?」
唐突に解けた魔法陣が再び二人を宙に投げ出した。
ハリーは意識を取り戻すと、総毛だった。
 (まだ間に合う!)
上空にはまだスノウピクシーの姿が垣間見えた。
 「ファイアボルト!僕の元へ!!」
ギュン!!ハリーを乗せた高性能箒は急上昇を再び与えつつ、ハリーを飛翔させた。
同時!落下するロンの真下にハーマイオニーが潜り込んだ!
ドサァアア!!彼女の体の上に落下する。
 「・・・もう。」
 「ご・・ごめん・・」
間抜けな声でロンが呟いた。

ハリーはもう一度嘆息した。ただし安堵の意味で。
手の中でもがくスノウピクシーを見やりながらハリーは丁度真下で佇む二人を見て微笑んだ。
どうやら・・・仲直りできたみたいだな。
もう一度嘆息すると、ハリーは二人の下へと降り立って行った。

 「まったく・・・無茶するなぁ。」
教室の窓から覗き込みながらルーピンは杖をローブの中へとしまい込んだ。 
 「まぁ・・・子供はこれくらいじゃなくっちゃね。な?そうだろポッター・・・」
笑顔でピースを送る動く写真は軽く頷くと親指を突き出していた。
黒いクセ毛の少年はもう一度笑う。ルーピンは写真に軽く微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・

ホグワーツは楽しい。
どんなことがあっても。苦しいことのあとには必ず楽しいことが待っている。
ホグワーツは楽しい。
本当に・・・来てよかったと僕は思った。

END

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