星の行方は星のみぞ知る。





 「あ?なんだよそりゃ。」
リッドは少し眠たそうな眼を擦りながら呟いた。
初夏の兆しを現す日差しは、眩しく窓のガラスを反射している。
少し汗っぽい頭を掻きながらリッドは寝起きの顔を鏡に照らし出した。
 「なにって・・・見て分からない?」
 「ワイ〜ル☆笹の葉さ〜らさらだよ〜♪♪」
なにやら朝っぱらから騒がしいと思ってたが・・・
リッドはとりあえず遅めの朝食をファラに注文すると、嬉しそうに飾り付けするメルディを訝しげに見やった。

 「・・・で?なにしてんだ?」
 「バイバっ!?リッド知らないのか〜?こうやって笹に短冊を吊るすとな〜♪」
 「・・吊るすと?」
 「サンタさんがプレゼント入れてくれるな!」
 「違ーーーーうッッ!!」
 「ワイール!キールがつっこみ高速〜♪」

ずれためがね(読書用)を直し、キールは椅子に座りなおした。
 「くそ・・・つっこむまいと誓ったばかりじゃないか!」
 「キールが意志弱いな〜。」
 「おまえに言われたくはないね。」
嘆息交じりに吐くと、キールは脱力感を椅子に乗せ、本へと目を落とした。

 「・・・そうか・・・。それじゃぁとりあえず肉だな。」

真剣な眼差しのリッドへとキールの叱咤が飛ぶまで数瞬といらなかった。







ラシュアンの空気は澄んでいる。
空気とともに存在する晶霊の気がラシュアンの空気に洗われ、自然現象に干渉をもたらす。
ラシュアンが最果てと呼ばれる所以でもあった。
空気が澄むと、小川付近に発光する魔法素が周囲を金色に染める。
 「綺麗だね〜。」
ファラは小さく呟くと、その光にうっとりと目をやっている。

ラシュアンから少し離れた小川沿いに、毎年夏祭りが開かれる。
これからの豊作を祈って、今までの収穫を感謝して、空の星々に感謝する祭りとされているのだ。
 「ほぅか?んなもん、まひとしみてんじゃねへか。」
 「分かってないな〜。今年のは一段と綺麗だよ?」
皿片手にもごもご言わせるリッドに呆れつつもファラは魔法素の光から目を離さなかった。
ゆったりした季節物のラシュアン染めを纏ったファラの横顔を伺いつつ、
 (ファラも一段と綺麗だよ。・・ってか?けっ。アホらし。)
自分の言葉に少し後悔しつつ、リッドは皿を横に押しのけ、川原に寝そべった。
 「も〜。汚れちゃうじゃない。」
 「いいじゃねぇか。・・・ん?キールとメルディはどした?」
 「え?家に戻ったみたいだよ?なんかお星様見るんだって。」
 「星だぁ?なんで家で見るんだよ。」
 「さぁ・・?学士さんの考えることだからねぇ。」
 「一味違うってか?・・・星ならここで十分だぜ。」

呻き声と一緒にリッドは軽く伸びをすると、大きくラシュアンの空気を吸い込んだ。

一緒に空の星まで吸い込める気さえする。
背後では、いまだ活気を失わない宴が開かれていた。

 「夏だね〜。」
 「夏だ〜。」
ふたりは小さく呟くと、少し笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「えっとな。えっとな。キール。「あまのがわ」って・・どれか?」
 「・・・どれって・・・天の川っていうのはあの屑星群を総称して呼ぶんだ。」
 「バイバ!川はお空に流れてないよぅ!キール、メルディがこと馬鹿にしてるな?」
 「だ〜か〜ら〜天の川は川じゃない。星のことだ。」
 「でも星は流れないよ?」
 「・・・なんで今日のおまえはこんなに突っかかってくるんだ?」
訝しげにキールはメルディを見やると、メルディは反射的に目を背ける。

リッドの家の2階の窓に設置された天体望遠鏡をもう一度覗きこみ、とりあえずキールはメルディの返答を待つ。
少し間を置いて、痺れを切らしたのはメルディのほうだった。
 「・・だって・・キール最近本ばっか読んでてメルディがこと相手してくれない・・・。」
 「・・・そんなことで拗ねるのか?」
メルディは過剰に首を振りながら続ける。
 「・・・だからメルディ、邪魔しないようにリッドとファラに色々聞いた。分かんないコト。」
 「・・ほぅ?」
 「でもな。でもな。どーしてもメルディ分かんないことあるよぅ!」
 「・・・なんだよ。」

少し俯きながらメルディは呟いた。
 「・・・彦星の「彦」って何か・・・?」

 「・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・」
 
 「知るかぁああああ!!!!!!」
 「バイバ!キールが怒鳴った!?」
 「そんなもん知るか!知ってたまるか!ってか専門外だ!村長のマメ知識にでも頼ってくれ!」
ぜぇはぁいいつつキールはひとしきり叫ぶと、再び望遠鏡に目をやった。
 「・・・それ以外なら答えてやる。」
少し赤らめながらキールは呟くと、途端メルディの顔が晴れ渡った。
 「そんじゃな!そんじゃな!えっとな。えっとなぁ・・・」
 「焦るな。ゆっくり考えろ。」
 「んじゃな。んじゃな。・・・・織姫の「織」ってなにか?」
 「そっから離れろぉおおおおお!!!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・



初夏の夜に納涼な風が笹の葉を揺らした。
風のみぞ知る夏の予感。
夜のみぞ知る短冊に込められた人々の願い。
星のみぞ知るこの星の行く末。

戦士達は、静かな休息を夏の夜に預け、夏の夜を楽しんだ。

海辺には、決戦を待ち望むバンエルンティア号の船体が、静かに星空に照らされるだけだった・・・。



END

 



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