Endless Dream番外 The Second Man


 

グォオオオン!!
轟音と共に、男が振るった大槌が見事、少年の体を吹き飛ばしていた。
一見即死の一撃。
男はほくそえんだ。今夜の優勝者は自分だ!・・・と。
しかし。状況は一瞬のうちに転向する。
 「あめぇよ。」
空に大きく掲げた大槌に、剣の刃が突き立てられ、丁度槌に這う形で少年はそこに居た。
 「おのれ・・・・!!」
ぶん!!そのまま地面に叩き落すが、時遅し・・・。
槌から離れた少年は、大きく上空に跳躍し、剣を掲げる!!

今晩も、彼が優勝者だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「・・・つっ・・・」
二の腕に滲む血を、さらしで抑えながら少年・・・ヴァイ・ハーシェルは人のいない控え室に佇んでいた。
 「・・・今日は危なかったな。」
昼間、闘技場として賑わうそれは、魔物も眠る深夜、一転してその姿を変える。
出場者が賭けの対象、ルールは相手を戦闘不能にする、影のコロシアム・・・。
ヴァイはそれの10戦連続優勝者だった。
元来の素早さと、剣技でここまで来れたのだが、いよいよ限界が近づいていることに否定はできなかった。
次回の大会は一週間後。それを優勝すればいよいよヴァイの「目的」は果たされるのだ。
 「・・・あと少しだ・・・あと少しで・・・」
小さく呟くと、余ったさらしを歯で引き千切り、その場に立ち上がる。
すると・・・

 「あなたがハーシェル・・・ヴァイ・ハーシェルですね?」
・・・女。
整った顔立ち、褐色の肌をした女性は控え室のすぐ入り口に「いつのまにか」佇んでいた。
 「・・誰だ?」
ふざけるな。ヴァイは口内で吐き、女性を見据える。
「いつのまにか」だと?確かに手負いではあるが、気は立っている。気づかないはずがない。
しかし、現に女性は自分の「気づかない」間に、控え室に忍び込み、そこに居るのだ。
 「あなたは・・・次の試合、勝つことはできません。」
女性の放つ一言に、ヴァイは睨み据えた。
 「・・なに?」
 「剣にはある程度の自信があるようですが・・・まだまだ未熟。この私にでさえ止めることはできます。」
 「なら・・・止めてみろッッ!!!」
激怒したヴァイは、鞘から剣を引き抜き、女性に斬りかかる!!
大きく跳躍し、一気にその間合いを詰めると・・・

パシィイ!!

何が起こったのか理解できなかった。
ヴァイはその場にひざまずき、剣は後方に。ただ、目の前には女性が持っている小さな槌があるだけだった。
 「・・・・!」
ようやく事体を把握したヴァイはたじろいだ。
 「あなたに剣士は向いていません。」

・・・・・・・・・・・・・・・

その女性は、名を教えてはくれなかった。
見た目・・・20代後半か。もしかしたら30をいっているかもしれないが・・・
それでもはっきりいって大分「美人」の分類ではあった。
強気なブルーの瞳、褐色の肌、額にはセレスティアン特有のエラーラ。
短めの金髪に、比較的動きやすそうな軽装をした彼女は、特徴的な帽子をかぶっていた。

 「君はどうしてそんなに優勝したいのです?賞金ですか?」
どういう訳か彼女はいつも敬語で、それでもあまり嫌味に聞こえないのは多少彼女が子供っぽいからなのであろう。
 「・・別に。俺は来週の試合に勝てれば・・・あとはもうどうでもいい。またどこかに流れるつもりだ。」
控え室を出て、正面玄関へ。そこから数分歩いたところにヴァイは宿を取っていた。
宿の自室で、ヴァイと女性は話していた。
 「・・・理解し難いですね。」
 「理屈じゃねぇんだよ。ただ「11回」優勝したいだけだ。」
 「11回?」
 「ある人を抜きてぇ。当時は3戦で1優勝だったらしいが・・・今は知っての通りルールが変わってるかんな。1戦1優勝。だから11
  優勝だ。」
女性は顎に手をやり、少し鼻で笑うと呟いた。
 「11回目が・・来週、と。」
 「そういうことだ。・・・で?本当なんだろうな。俺を強くしてくれるって話は。」
 「えぇ。明日から師事を始めますよ。だから今日はゆっくり休んでくださいね。」
彼女は立ち上がると、きびすを返しそのまま扉の前にまで歩いて行った。
 「それではいい夜を。」

つくづく・・・謎な女だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

あえて、名は語らずとして、ヴァイは彼女のことをいつしか「師匠」と呼ぶようになっていた。
修行が続くこと数日、ふと空を見上げてみる。

 「・・・変わった・・・?」
ヴァイが呟いたのに、師匠は反応する。
 「何がです?」
 「いや・・・空の具合が・・・色?が昨日と違う気がする。」
 「・・・」
 「セレスティアは昔見える位置にあったんだよな?それがある日・・・」
 「グランドフォールのことですか?」
 「そう。それがあってインフェリアとセレスティアは引き離された。・・が、現在その交流は盛ん・・・か。」
 「現に私だってセレスティアンですからねぇ。」
師匠は自分のことを指差し、立ち上がった。
手に持った鉄に筒を取り付けたような道具をホルダーから引き抜き、ヴァイに促した。
 「いよいよ明日です。・・・準備はできてます?」
 「あぁ。ばっちりだ。・・・いよいよか。」
すっかりよくなった右腕を擦り、起き上がる。
筒状のそれを、数メートル先にあるリンゴに向けて構えると・・・


付近の森に、轟音が響き渡った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜も更け、もうひとつのコロシアムが始まる時刻・・・
いつもの控え室に、いつも通りヴァイはそこにいた。
いつものプロテクターを左胸に装着し、剣と鉄のホルダーをベルトに結びつける。
ふと、プロテクターに目をやると、何かが違っていた。
強化加工した半透明の防護ガラスの奥に、一文字赤い字が刻印されている。

 「・・・師匠か。」

プロテクターには・・・
どういう理由かは知らないが・・・
一文字。「2」と刻み込まれていたのだった。




ギィィィィイイイイ・・・・
丁度向いの選手入場口が開き、一人の男が立っていた。
五月蝿い声援。虫唾が走る罵声。
ヴァイはひとつ呼吸を正すと、石造りのリングの階段をゆっくり上る。
ゆっくり・・・ゆっくり歩を進め・・・

 「さぁ今宵最後の優勝者決定戦です!合計10連勝中のヴァイ・ハーシェルに、対するは挑戦者・・・・おや?おかしいですね。名前が
  登録されてないようですが・・・まぁいいや。対するは謎のフードの男!!!」

フードの男。
こちらからはその顔は見えないが、相当の実力を備えている・・・
 「てめぇに勝ったら俺の目的・・いや、目標は果たされる。せいぜいあがいてくれよ?」
鞘から剣を引き抜き、フードの男に突きつける。
 「・・・やれやれ。」
フードの男は首を横に振ると、しかたなさそうにマントの中から細身の剣を抜き出した。
ボロボロに刃こぼれしたそれを訝しげにヴァイは見つめ、嘆息する。
 「・・なめたもんだ・・・」

遂に、決勝のコングが鳴り響くのだった。

先制をかけたのは、ヴァイ。
大きく構えた剣をフードの男に切り落すように跳躍!
フードの男がその剣撃を刀身で受け止め・・・
 「でりゃぁあああ!!!」
一喝、ヴァイの右手に闘志が宿った。
フードの男が剣を封じられている隙に・・・
 「獅子戦吼ぉぉぉおおお!!!」
闘気の波動がフードの男の脇腹を捕らえ、吹き飛ばす!
 「おふくろ仕込みの拳法!ちょっとやそっとじゃ敗れねぇぜ!」
 「・・・母親は元気か?」
 「・・・あ?」
唐突に投げかけられた問いに、ヴァイはたじろいだ。
フードの男はまるで効いた風ではない。
 「多分元気じゃねぇのか?ピンピンしてらぁ!」
 「そうか。」
キィィン!!
 「・・しまっ!?」
一瞬微笑んだフードの男が、ヴァイの剣を弾き飛ばし・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「・・感心しないなぁ。こんな危ない大会に出て。」
女性は肩にラシュアン染めの上着を羽織、少し冷える夜風に両腕を抱いていた。
 「そう言わないでください。ヴァイ君、わたしの修行にも耐えたんですから。」
 「あら?「私」って言えるようになったの?」
 「な・・なな・・・私だって歳くらわきまえますよ!いつまでたってもあのままじゃ勤まりませんからね!」
 「ふふ。・・それで?ヴァイの相手ってやっぱり・・・」
 「えぇ。無理言って来てもらったんです。今頃怒ってるでしょうね。」
 「「まったく!こんなんじゃ作業がいくら経ってもすまないじゃないか!僕ひとりじゃどうにもできない・・・そう例えば力作業とかが
  いくらでも残っているのに!」・・・って?」
 「そうそうそんなかんじ。」
 「・・・本当・・なの?「あの人」が復活したって・・・」
 「・・今それをあのふたりは調査してるんです。・・・恨んじゃだめですよ?」
 「分かってるわよ。あの人は定期的に帰ってきてくれたもの。・・・ヴァイには会わなかったけど。」
 「・・あ!勝負が決まりますよ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

フードの男の剣先が、ヴァイの目前に掲げられる。
身動きの取れないヴァイは、腰を地面に落としたまま、硬直する。
剣ははるか前方・・男の背後。
取りに行くことは不可能だった。
 (・・となると・・・)
 「・・・なぁヴァイ。その「2」ってどういう意味か分かるか?」
唐突に問い掛けられた質問にはヴァイは焦った。
 「・・なに?」
 「決して「2番目」ってわけじゃねぇからな。・・・おめぇは・・・」
 
 「「2人目」ってことだ。」

風が吹いた。
今・・しかないとヴァイは思った。
幸い腰に備えたそれに男は気づいていないようだ。

風が止まる。
鼻先に添えられた剣が掲げられ、剣閃が煌く。
一瞬静止し・・・・

風が落ちた。
剣と共に落ちた風は、ヴァイの額目掛けて襲いかかり・・・

ヴァイは風を放っていた。
一気に引き絞ったトリガーが音を立て、筒の中から力ある風が飛び出す。

風は男の頬を掠め・・・
男は風によろけ・・・
剣撃は男に力からはずれ・・・
ヴァイはもう一度、風を放つ。

風は見事に剣を捕らえると・・・

風は男の剣を粉砕していた。

 (・・やった・・・!!)
一瞬歓喜し、低姿勢のままもう一度男に向けてトリガーを絞る!
・・・が。
 「しま・・・・っ!?」
弾はそこには残っていなかった。
2射式のそれは、ただ沈黙したままフードの男刀身のない剣を見つめていた。

そこでヴァイの意識は途絶えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「・・師匠。結局「2」ってどーいう意味なんだ?」
闘技場での一件から数ヶ月、改良を重ねた鉄筒・・・クレーメルマグナムをホルダーに差込み、ヴァイは師に尋ねた。
 「あの日、彼が言ったでしょう?「2人目」ってことです。」
テキパキ「船」の準備に励む師を見つめ、ヴァイは呟く。
 「・・・だからなんの2人目なんだよ・・・」

すっ・・・
師はその場に立ち上がり、愛用のゴーグルを取り外す。
すると、ゆっくりと呟いた。
 「天才的マシーナリーであるこの僕の2人目ってことですよ。」
 「・・師匠自分のこと自慢するとき一人称が「僕」になるもんなぁ。」
 「ほ・・ほっておいてください!」
顔を赤らめ怒る師を笑い、ヴァイは呟いた。
 「・・それだけ?」
 「・・・あなたはあの人の息子。時は流れすぎました。もしもの時は・・・」

 「おめぇが俺の2人目になれってことだ。」
すぐ後ろに男が立っていた。
数ヶ月前、闘技場で戦りあったその男が。
 「・・・おまえは!?」
 「久しぶり・・でもねぇか。ヴァイ。」
フードを払い、男は微笑んだ。
 「・・・!!?」
 「かあちゃん元気にしてるか?・・・おまえには苦労かけたからなぁ。」
バツの悪そうに後頭部をかく男に、ヴァイは震え・・・

殴った。

 「いってぇえ!?」
 「ぼけ親父っ!!放浪親父!!無責任親父!!食い意地親父!!」
 「ひどっ!?」
 「・・・それでも・・・てめぇは俺の親父だよ。」
にっ。笑うとヴァイは倒れた父親を起こし、微笑んだ。

 「さぁ!出発しますよ!行き先はセレスティアでも、インフェリアのどこかでもありません!!」
 「アイアイサー!!行ってくんぜ!親父!師匠!!」




 「目指すは「アセリア」へ!!」


師と父親に見送られ・・・

ヴァイ・ハーシェル・・・いや。
Endless Dreamerヴァイは、旅立った・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

 「・・さぁて。あとはこっちのことだよな。」
 「今日から僕も手伝いますよ。」
 「おぉ。悪ぃな。久々に皆集まるってことだな。」
 「・・・ってことは?」
 「・・・その・・・アイツも・・・来るから。」
照れているのか・・・
正直彼女は、この男の純粋さに憧れたのかもしれない。
ぼりぼり後頭部をかくかつての英雄を上目づかいに、彼女はうなずいた。

アイフリードから受け継いだ帽子は、ヴァイの旅立ちの余韻を受け、そして新たな戦いへと誘うのだった・・・。



END



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